高校無償化訴訟大阪弁護団声明
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既報のように、日本全国5ヵ所で係争中の高校無償化裁判のうち、最高裁に上告中だった東京と大阪で、最高裁判所第三小法廷(山崎敏充裁判長)はいずれも8月27日付で、原告側の上告を棄却し、上告受理の申立ても受理しないとする決定を下した。
これで原告の東京朝高元卒業生らと大阪朝鮮学園側の敗訴が確定した。
先日、本ブログで東京、大阪両訴訟での敗訴を伝えた際、東京弁護団の声明のみ掲載したので、今回のエントリでは、少々遅くなってしまったが、大阪弁護団の声明を載せる。声明は9月2日付。
声明は次のように指摘している。
…第二審の大阪高裁は、法の趣旨である「教育の機会均等」を重視せず、ただ行政裁量を拡大することで行政の判断について違法性を問うことを困難にしたうえで、文部科学大臣の不指定処分を違法とした一審判決を取り消した。これは、自らの役割を狭め、行政による人権侵害から被害者を救済することを困難にする司法権の自壊である。
最高裁第三小法廷は、この大阪高裁による行政裁量の拡大を追認したという意味でも、極めて大きな過ちを犯した。最高裁が行政行為について、自ら正当な法解釈を行わないのであれば、今後、行政による権限の逸脱濫用が際限なく繰り返されることになる。
この間、大阪での裁判を継続的に傍聴取材してきた。2013年1月24日の提訴から6年半におよぶ裁判の過程で、大阪では、下級審ではあるが、高校無償化裁判における現時点で唯一の勝訴判決を勝ち取っている。
2017年7月28日、大阪地裁第2民事部は、文部科学大臣が政治的・外交的理由により行った規定ハ削除を無効とし、「不当な支配」が疑われることを理由に行われた不指定処分を違法として、大阪朝鮮高級学校を就学支援金の支給対象校として指定することを義務づけるという原告全面勝訴の判決を下した。「就学支援金の支給は生徒たちの受給権として規定されており、司法的救済の要請は高い」という判断の下、在日朝鮮人による民族教育の歴史的経緯や意義、学校と民族団体、祖国との関係性も踏まえたうえで、国による教育への介入を許さなかった。
このように法を真っ当に解釈し、行政により侵害された人権を回復させることこそ、司法が本来果たすべき役割だったが、結果は今回伝えたとおりだ。
裁判はこのような結果に終わったが、これまでの過程を振り返り、今後の運動を進めていくうえで参照し立ち返るべきは大阪地裁勝訴判決だと思っている。
今月下旬に出る10月号では今回の最高裁決定を伝える記事が掲載される。そこで以上のような趣旨で解説も書いた。(相)
(写真は、2017年7月28日、大阪地裁での判決言い渡しを控えた原告・大阪朝鮮学園側の入廷行動)
声明
2019年8月27日、学校法人大阪朝鮮学園が国を相手方として、大阪朝鮮高級学校をいわゆる高校無償化制度に基づく就学支援金支給対象校とすることを求めた裁判について、最高裁判所第三小法廷は、大阪朝鮮学園の上告を棄却し、上告受理申立を受理しないとする不当な決定を行った。
この決定は、上告棄却について、「本件上告の理由は、違憲及び理由の不備・食違いを言うが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに」上告理由に該当しない歳、上告受理申立ての理由についても、「本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない」として、本件事案についての具体的な理由は一切記載されていない。
しかし、我々は、上告理由書において、憲法26条に規定する「ひとしく教育を受ける権利」、及び憲法14条に規定する「法の下の平等」違反等、多くの憲法違反を主張した。「教育の機会均等」を趣旨とする高校無償化制度からの差別的な排除の違法性が問われている本件において、憲法26条及び憲法14条が問題となることは誰の目からも明らかであり、これらを憲法違反でなく単なる法令違反の主張と解釈する余地はない。
上告受理申立理由についても、最高裁第三小法廷は、民訴法318条1項に規定する判例違反及び法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められないと判断したが、本件は、教育基本法16条1項の「不当な支配」を理由に、外国人学校が外国人団体との関係性により、教育関係法令に基づく制度から除外されるという初めてのケースであり、「不当な支配」の適用について、これまでの判例理論と異なる判断をしたというものであって、法令解釈について重要な事項が含まれていることは明らかである。また、「ハの規定を削除したこと」及び「規程第13条に適合すると認めるに至らなかったこと」という抽象的で相互に矛盾する処分理由が付記された処分を適法とした高裁判決は、処分理由の記載自体からいかなる事実関係を認定して判断されたのか了知することができない処分を違法とした最高裁判例にも反しており、上告受理申立理由があることも明らかである。
それにもかかわらず、最高裁が実質的な理由を一切記載せず今回の決定をしたのは、人権保障の最後の砦としての司法の役割を放棄したに等しい。
第一審の大阪地裁判決は、「教育の機会均等」を趣旨とする高校無償化制度において、文部科学大臣が政治的・外交的理由により行った省令改定を無効とし、「不当な支配」が疑われることを理由に行われた不指定処分を違法として、大阪朝鮮高級学校を就学支援金支給対象校として指定することを義務付けるという、法の趣旨に則った極めて正当な判決を下した。このように報を正当に解釈し、行政により侵害された人権を回復させることこそ、司法が果たすべき役割である。
しかし、第二審の大阪高裁は、法の趣旨である「教育の機会均等」を重視せず、ただ行政裁量を拡大することで行政の判断について違法性を問うことを困難にしたうえで、文部科学大臣の不指定処分を違法とした一審判決を取り消した。これは、自らの役割を狭め、行政による人権侵害から被害者を救済することを困難にする司法権の自壊である。
最高裁第三小法廷は、この大阪高裁による行政裁量の拡大を追認したという意味でも、極めて大きな過ちを犯した。最高裁が行政行為について、自ら正当な法解釈を行わないのであれば、今後、行政による権限の逸脱濫用が際限なく繰り返されることになる。現実に、現在、幼保無償化制度の開始が目前に迫っているが、この制度からも、朝鮮学園が運営する幼児施設を外そうとする動きがある。
我々弁護団は、教育制度において、特定の教育施設に通う子どもたちが政治的・外交的理由や特定の団体との関係により排除されること、及び行政による差別的行為を追認する最高裁判所の決定に対して、断固として抗議するとともに、教育を受ける権利を差別的に侵害される子どもたちを救済するため、法的手続を含め、あらゆる手段を検討していく。そして、大阪地裁での勝訴判決により抱いた希望を忘れず、当事者や支援者たちと連携を取りながら、子どもたちの未来を切り開くため、何度でも闘い続けることを誓う。
2019年9月2日
高等学校等就学支援金支給校指定義務付等請求事件弁護団(「高校無償化」訴訟大阪弁護団)