マイノリティの人権と尊厳を脅かす「嫌韓」扇動―4団体が抗議声明発表
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韓・日関係の悪化とともに日本国内で「嫌韓」をあおるような報道が相次いでいることを受けて、外国人をはじめとするマイノリティの人権保障に取り組む4団体が9月12日、衆議院第二議員会館で記者会見を開き、声明を発表した。
声明を出したのは、「NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」「外国人人権法連絡会」「人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)」「のりこえねっと」の4団体。
声明の全文は次の通り。
【マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」扇動に抗議する声明】
私たちマイノリティの人権保障と反差別に取り組むNGOは、昨今の勧告への日本政府の対応や、それと連動した報道や出版が、日本社会の中にある「嫌韓感情」を焚き付け、在日コリアンをはじめ、日本に暮らす移民やマイノリティの人権と尊厳を脅かしていることに、深い憂慮を抱いています。
日本と朝鮮半島の歴史的な結びつきを背景に、日本社会には、百万を超える在日コリアンやコリアン・ルーツの人びとが暮らしています。そうした人々の多くは、今、この社会を覆う「嫌韓」ムードや、それにもとづくテレビや出版物、インターネット・SNSあるいは日常生活における差別的な発言・振る舞いに傷つけられ、テレビやネットを見ることができなくなったり、SNS発信もできなくなるなど恐怖や悲しみを感じながら暮らしています。また、「親日/反日」のような単純な二分法で「日本」に忠誠を迫る言説は、それ以外のマイノリティにも生きにくさを感じさせています。
今回の「嫌韓感情」の急速な悪化の背景の一つとなった韓国での徴用工裁判における大法院判決は、日韓政府の戦後処理のあり方に疑義を突きつけるものでした。植民地下の人びとに多大な苦痛と被害を与えた日本は、この問題に率先して向き合う必要があります。実際、日本政府はこれまで、村山首相談話、日韓共同宣言を公にし、2010年の菅首相談話では、「植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、」「痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」しました。これらによる政府見解は、現在でも有効とされています。
また日本政府は、従来から、日韓条約締結にともなう請求権協定によっては「個人請求権は消滅していない」という立場に立っています。にもかかわらず、その点はほとんど報道せず、韓国の対応ばかりを批判する政府やマスメディアの姿勢は大いに問題があります。
「過去の歴史をいつまで批判されるのか」という反応もみられます。しかし、本人の意に反して徴用され、苦役に従事したうえ、長年にわたり何の補償もなく放置されてきた当事者及びその家族にとって、これは決して「終わった」出来事ではありません。
「徴用」にまで至った植民地支配下の労働移動は、労働者の権利や尊厳を顧みず、過酷な労働を強いました。これは、現在の外国人技能実習制度にも通底する問題です。つまり「徴用」は、この点でも、現在を生きる「われわれ」にとっての問題でもあります。私たちは、支配された人々の人権と尊厳を最も残忍な形で奪った植民地支配とアジア太平洋戦争の歴史、それを曖昧な形で処理してきた戦後の対応への真摯な反省を通じてこそ、マイノリティの人権と尊厳が保障される社会を、今ここにつくることができると考えています。同時に、この深刻な被害を引き起こした人権問題を共同で解決しようとすることこそが、日本と韓国、ひいては東アジアの平和の基礎となるべき、未来志向の作業であるはずです。
本来、マイノリティの人権と尊厳にかかわるはずの問題が、国と国の対立の問題としてばかり扱われることによって、十分な事実理解を伴わない感情的な反応が生み出され、特定の国民・民族を貶め、差別を煽るヘイトスピーチ、ヘイトクライムとして表出されています。それらを日本政府、日本社会が容認し、「正統」な言論として拡散されている事態を、まずもって終わらせる必要があります。このような立場から、日本社会における「嫌韓」扇動に抗議し、マイノリティの安心・安全を早急に回復するよう求めます。
2019年9月12日
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人人権法連絡会
人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)
のりこえねっと
会見では、在日コリアン3世の女性が寄せた次のようなメッセージも読み上げられた。
連日メディアが韓国政府を「反日」と揶揄する報道を繰り返しているおり、「出自が原因で酷い目に遭わされるかもしれない」という気持ちが日に日に強くなっています。離れて暮らす両親に電話して、実家の表札を外すように言いました。両親はこれまで、地域の人と仲良く暮らしてきました。しかし「金」という名前を見た通りすがりの者、地域に住んでいても在日韓国人に悪感情を持つ者がいつ嫌がらせをするかわからない。年老いた両親に何かあってからでは遅いため、外すように言いました。とても悔しく悲しい決断ですが、やむをえませんでした。
会見では、4団体の代表や在日コリアン当事者が発言し、記者との質疑応答も行われた。主な登壇者の発言要旨は次の通り。
●金秀一さん(在日コリアン2世)
通称名を名乗っていたが、高校生の時に本名宣言をした。当時は息苦しさが今よりももっとあった時代で、在日コリアンは差別の対象だった。40年たった今、また同じようなことが起きているのではないかという思いを持たざるをえない。インターネット上に何か本名で書きこめば、不特定多数の目にさらされ、変な反応が寄せられる。
ある在日コリアンの先輩が、何かあったら在日が真っ先に殺されると言っていた。まさにそんな思いを持たざるを得ない状況がある。しかし、そんな世の中でいいわけがない。人と人がもっと当たり前に生きていく世の中であってほしい。
そういう意味で、もう少しマスメディアが冷静に互いの友情を築けるような形でものを発せられないか。これからを生きる若者たちがもっと夢を描いていけるような、とくに少数者といわれている外国人が夢を持っていけるような社会になってほしい。
●師岡康子弁護士(外国人人権法連絡会)
この問題のキーワードとして「反日」という言葉がある。今の日本政府や過去の政府がやったことを批判することがあたかも日本人全体を批判するかのように受け取らせてしまうのは非常に危険なことだ。日本政府がやっていることを批判すると、かつては「非国民」といわれたが、それと同じこと。国や政府と国民一人ひとりの違いを区別しないと、この問題はヘイトスピーチに直結してしまうということを報道機関は理解してほしい。
韓国バッシングは実際に在日コリアンの生活を恐怖の下に置いている。電車に乗れば嫌韓という見出しの広告がある。店の中で流れていたテレビが韓国バッシングをしていた、自分がコリアンだとわかったらどうしよう思うと、食堂に行くのも怖い。病院で「金さん」と呼ばれて自分がコリアンだとわかったらどうしよう、そう思うと席を立てなかった。そんな話を、生まれた時から民族名を名乗って暮らしてきた在日コリアン2世から聞いた。これは市民社会の責任でもある。マスメディアも、自分たちのやっていることがこういうことをもたらしているということを認識してほしい。
その人の属性、○○民族の人たちを十把ひとからげで「劣っている」「怖い」「愚か」「敵」などと煽って攻撃するというのがヘイトスピーチの本質であり、今まさに起きていることだ。ヘイトスピーチ解消法の理念からすれば、国が先頭に立ってそれを批判していかなくてはいけない。メディアも今回のような「嫌韓」「反日」ではなく、ヘイトスピーチを許さないという行動をしてほしい。私たち市民一人ひとりも日常生活の中で反対の声を上げて、社会の空気を換えていくことが必要だと思う。
●鳥井一平さん(移住連代表理事)
今日発表した声明は、自分たちに向けて出された声明だと考えている。メディアも含めた市民社会に何ができるのか。
徴用工問題は労働問題だ。日本列島以外の労働者あるいは日本列島の中でもマイノリティの労働者に対しては使い捨ての労働力としてしか見ないということがずっと続いている。労働者を使い捨てにする企業はすべての労働者にとって問題だ。徴用工の権利を否定するということは私たち一人一人の労働者としての権利を否定することになる。日本にはいまだに韓国徴用工たちの遺骨が残っている。政権同士が合意したからといって、個人の請求権が消えたら大変なことになってしまう。一日も早く私たち自身が、この社会をともに作っていく一員がコリアンであり、さまざまな国々から日本にやってきた人たちだと発信しよう。
記者の人たちはみな事実を知っていながら、なぜ黙っているのか。韓国とは縁を切るべきだとか、そういうとんでもない言説がメディアの中に存在することをどうして許しているのか。メディアを含めたわれわれ市民社会が知っていることを知っていることとして言わなくてはいけない。
●佐藤信行さん(ERDネット)
日本は1995年に人種差別撤廃条約に加入した。2001年、10年、14年、18年とそれぞれ日本政府報告書審査があり、在日コリアン、移住者、アイヌ、沖縄、被差別部落の人びとなど日本の中でマイノリティと呼ばれている人たちに対する制度的差別と社会的差別に対して厳しく批判されてきた。人種差別撤廃委員会は日本軍慰安婦問題についても、過去の問題ではなく現代に続く問題であるとして日本政府に解決を求めている。
いまや日本は移民社会だ。さまざまな文化を持つ人々が日本社会で暮らしている。私たちは歴史と向き合う移民政策を求めていく。歴史と向き合うことなく移民政策を考えても、それは机上の空論だ。外国人の労働力だけを切り取って都合よく使い捨てる、そういうシステムを批判していかないといけない。
(相)