【特別企画】さんねん峠と仲間たち
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創作民話「さんねん峠」など多くの名作を生んだ作家・李錦玉さんが7月、逝去した(享年90)。日本に一番近い隣国・朝鮮。李さんはこの地の庶民たちが、生きる知恵とした昔話に息を吹き込み、日本で伝えつづけた。
朝鮮半島の民話にかけた人々の思いを追った。
李錦玉さんと朴民宜さん 名コンビの絵本、誕生秘話
日本の教科書にも載っている朝鮮の昔話『さんねん峠』。今でも子どもたちに人気のお話だ。
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むかしむかし、さんねん峠では、「一度転んだら3年きりしか生きられぬ」と言い伝えがあったという。隣村へ反物を売りにいったおじいさんが、景色にうっとりしていると、日が暮れてしまい、真っ暗闇のなかで転んでしまう。「3年しか生きられない」と病に伏せるおじいさん、機知に富んだ少年は、「一度ころぶと3年生きるんだろ。二度ころべば6年、三度ころべば9年…」とユーモアあふれる言葉で老人を励ます。絵本『さんねん峠』(岩崎書店)が出版されたのは1981年のこと、以来、39刷を重ねるロングセラーとなっている。
解放の喜びを胸に
この絵本は在日朝鮮人2世の児童文学作家・李錦玉さん(享年90)が文を、画家・朴民宜さん(72)が絵を担当した。
2人のオリジナリティは際立っていた。リズミカルで流れるような日本語、ほのぼのした朝鮮の風景と優しい人々の絵…。「作家も画家も女性で、しかも日本生まれの2世というコンビの昔話は初めてだった」と太鼓判を押したのは児童文学者の内田庶さん。「日本の風習、習慣はもちろんのこと、文化のすべてが朝鮮をぬきにして語れない…。日本の文化の源泉に目を向けようなどと大上段にふりかざすまでもなく、これほど親しい朝鮮の文化がほとんど紹介されていないことをまず、不思議に思うでしょう。日本の出版社から朝鮮の昔話が紹介されることには大きな意味がある…」(『さんねん峠』あとがきから)。
この物語は、のちに小学3年の国語教科書に掲載され、日本学校に学ぶ子どもたちが知る隣国の昔話となった。…
三年とうげ
文:李錦玉 絵:朴民宜
※本書では、光村図書出版の小学校 国語 三年下巻『あおぞら』(2018年発行のもの)より転載した「三年とうげ」を読むことができます。
インタビュー/ゆかりのひとたち
「悲しみ乗り越える力をくれた」金正愛さん(60、画家)
李錦玉さんと初めて一緒にお仕事したのは20年以上前のこと。『朝鮮画報』の連載で、李さんの文章に私が絵をつけることになりました。「一粒のアワから」という朝鮮の昔話をよく覚えています。日本で言う「わらしべ長者」のようなお話です。物語の運びが上手で、わくわくするような内容に引き込まれました。
それから何年も経って李さんから連絡があり食事をすることに。とても聡明ながらおっとりしたオーラがあって、少女のような澄んだ心を持った人だなというのが初印象です。李さんは「これからチョンエトンムと一緒に仕事がしたい」と。…
「隣国への親しみの灯、教科書のなかで」光村図書出版 第一編集部国語課 山本智子編集長、野田由美子副編集長
私たちが出版している小学校三年生の国語教科書で「三年とうげ」が使われるようになったのは1992年からです。教科書は原則4年にいちど改訂があり、その際にたくさんの本や雑誌などから候補となる文章を探します。候補の一つとして持ち寄られたのが絵本の『さんねん峠』です。
登場人物がはっきりしている、リズミカルな文体で楽しく読める、展開が分かりやすいなど、三年生の子どもたちが楽しみながら考え、物語を読みとる力をつけていくのにぴったりだということで、当時の編集委員会で採用されました。…
おばけのトッカビやってきた! “となりの国の昔話”を人形劇で/長野県「いいだ人形劇フェスタ」
「いいだ人形劇フェスタ」(7月31日~8月5日)が長野県飯田市で開催された。同フェスタは1999年に市民主導で始まり、毎年開催されている日本最大の人形劇の祭典だ。初日には、名古屋を拠点に活動している「人形劇ちんどん」が、数ある会場の一つで朝鮮の民話「おばけのトッカビと朝鮮人参」を上演。約150人が地域の公民館を訪れ、となりの国の昔話にふれた。…
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