【幼保無償化】「朝鮮幼稚園、差別しないで」―保護者ら懸命の訴え、18都道府県の代表が関係府省に要請、東京と大阪で緊急集会も
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10月から施行される「幼保無償化」から朝鮮幼稚園・朝鮮学校附属幼稚班(以下、朝鮮幼稚園)が除外されようとしている問題と関連して、9月26日、朝鮮幼稚園が所在する日本各地18の都道府県から駆けつけた幼稚園関係者、児童の保護者代表らが関係府省である内閣府、厚生労働省、文部科学省を訪れ、朝鮮幼稚園にも幼保無償化を適用するよう求める要請活動を行った。
一行は、21日に都内で行われた第11回中央オモニ大会で採択された抗議要請文を関係各府省の担当者に手渡し、それぞれの思いを伝えた。また、「多種多様な教育」を理由に朝鮮幼稚園が除外されたことについて見直しを求める8500筆以上の署名も提出された。この日、立憲民主党の初鹿明博衆議院議員も「中央オモニ大会」要請団の要請行動に同行した。
「消費税はあまねくすべての人が納税しているにもかかわらず、なぜ朝鮮幼稚園だけ除外されるのか分からない。対象から外れた基準に『多種多様な教育』とあるが、そういう基準の暴力をいつまで私たちに振りかざすんですか」
はじめに内閣府で行った要請行動では、京都から訪れた鄭英姫さんが発言。保護者たちの強い怒りを代弁し、今後の対応についての回答を求めた。しかし、担当者は誠意の感じられない姿勢で、すでに明らかにされている除外理由をなぞるのみだった。
内閣府での要請の最後に初鹿議員は、「保育だけ認可外も含めて、それこそ質の担保をしていなくても指導監督基準を満たしていなくても対象にすると間口を広げておいて、幼稚園に近いものは認可しか認めないという線引きしていること自体、制度として無理がある」としながら、「多文化共生社会というのを国が打ち出している中で、外国人の学校は対象から外しますよというのも政府の方針に反するし、矛盾する。それも含めてもう一度検討してもらうようお願いしたい」と念を押した。
文科省での要請では、愛知から参加した玄裕姫さんが発言。「全国に5万5000以上もある保育施設、幼児施設の中でなぜ88校だけがあえて排除されるのか。全体の0.16%という数字を見たときに、なんて不当なのだろうと思った」と声を震わせた。
「対象外となった理由を聞いてもまったく納得がいかないのは、根底が差別だからだと思う。まだ3歳になったばかりの子を差別する社会って何なのですか。平等にあるものは平等であるべきだと私たちが身をもって子どもたちに伝えてあげないといけない。全国の保護者たちがこのために集まったということを想像力を持って聞いてほしい」
「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」(以下、連絡会)の宋恵淑代表は、「外国人の受け入れに関する報告書がウェブサイトに乗っている。そこでは外国人との共生の実現のための方向性として、『外国人の子どもたちが行政の狭間に取り残されることのないよう、教育機会を確保し、地域社会で生活していくための…』といった文言が書かれている。しかし、まったく矛盾している」と訴えた。
しかし、要請団参加者らの切実な思いを受けた文科省の担当者の発言はひどいものだった。「われわれも外国人との共生社会の実現は大事だと思っているし、それと、今回の幼児教育の、保育の無償化のその給付の制度というものはこういう風な形になっているという状況でございます」。返答になっていない返答に、悔し涙を流す保護者もいた。
大阪の金亜紀さんは、「あなたたちがしていることは差別なんですよ。私たちの大切な子どもたちを、色んな理屈をつけて合法的に差別しようとしている。でもそこには法的根拠がないじゃないですか? これから入ってくる外国人の子どもたちはフォローして、私たちの存在は見えないものとして扱うんですか? 10月から施行される幼保無償化から、実際に私の子どもは除外される。その人権感覚をあなたたちは持っているんですか?」と怒りをにじませた。
要請後の記者会見では、要請団参加者全員が前に並び、メディア関係者らへ積極的な報道姿勢を求めた。連絡会の宋恵淑代表は「制度の矛盾点や不足点について取り上げるメディアはいても、外国人学校の幼児施設が除外されているという観点からはほとんど取り扱われることはない。ぜひとも取り上げてほしい」とメディア関係者らへ呼びかけた。
東京都内で緊急集会
同日夜には、「朝鮮幼稚園に『幼保無償化』適用を求める同胞緊急集会」が東京都内で行われた。会場となった連合会館には東京を中心に関東各地の朝鮮学校関係者、朝鮮幼稚園児童の保護者を中心に大勢の人びとが集まった。
「幼保無償化の財源である消費税は負担させておいて、無償化の権利は一方的にはく奪する。こんな不公平な差別を露骨に行う国がほかにどこにあるというのか―」
集会の報告を行った総聯中央の南昇佑副議長は今回の幼保無償化から朝鮮幼稚園を除外しようとする措置の不当性について指摘し、現在、各地で行われている抗議・要請行動と今後の取り組みについて話した。
続いて、この日の集会に先立って行われた、日本各地の朝鮮幼稚園関係者、児童保護者らによる関係府省への要請についての報告が行われた。
「朝鮮幼稚園に通う5歳の末っ子がある日、テレビを見ながら、『オンマ、なんかしらへんけど幼稚園無料になるって』と言いました。私が『朝鮮幼稚園は違うんだよ』と答えたら、『なんで違うの』って…。東京に行くわけを聞く末っ子に、私は『ウリ幼稚園がなぜ無料にならないのか、聞いてくるからな』と言って出てきました。…子どもたちに民族の言葉を学ばせてあげたいという当たり前の思いをなぜ踏みにじるのか、等しく納税義務を果たしている私たちにはなぜ権利がないのか。日本政府は朝鮮学校も朝鮮幼稚園もなくそうとしている。私たちは黙っていられない」
兵庫県内の朝鮮幼稚園に子を通わせる女性の悲痛な叫びが集会参加者らの胸を打った。
集会では、地域の総聯本部・支部の活動家、朝鮮幼稚園の園長らも壇上で発言した。発言の合間には抗議のシュプレヒコールがあがるなど、会場は理不尽な差別に対する怒りと諦めずたたかっていこうとする気概に満ちていた。
この日、大阪市内でも幼保無償化実現の差別なき適用を求める近畿緊急集会と9・26御堂筋ウォークが行われた。参加者らは大阪市役所近くの中之島公園水上ステージ広場で集会を開いた後、西梅田公園まで行進した。
幼保無償化の適用を求める運動は今後も続く。朝鮮幼稚園が所在する都道府県を中心に各地域で地方議会議員や行政に対する要請活動も行われており、11月2日には日比谷野外音楽堂で大規模集会とデモが予定されている。