vol.24 「オモニ、ぼくを助けてください…」平壌出身の「徴用工」、柳大根の思いを背負って
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写真:中山和弘
大阪府豊中市の大阪市設「服部霊園」北東端に、高さ5㍍ほどの碑が立っている。大阪空襲で死亡した無縁仏2870人の慰霊塔だ。そこに眠る一人が柳村大根。民族名、柳大根である。
生まれは1925か26年、本籍は平安南道平壌府水上町。渡日の契機は43年9月、日本製鐵(現・日本製鉄)が平壌で募集広告を打ったのだ。大阪工場で2年働けば、本社か朝鮮の会社で技術者として雇うという。現代の奴隷制ともいわれる技能実習生制度の原型がここにあった。
柳ら100人が「採用」され、釜山から下関経由で大阪に。その間、彼らの一人が逃げた。最初から「囚人」紛いの扱いだった。不安は工場近くの寄宿舎をみて確信に変わる。窓には格子が嵌り、舎監が出入りを常に監視する。「騙された」。元同僚の証言だ。担当の警官が全員を集めて嘯いた。「お前たちの実家は全員把握している。逃げられると思うな」。歯向かえば故郷の家族に危害を加えるとの意味である。警察は毎週巡回してきた。
起床は朝6時、軍事教練の後、午後は見習工として働かされた。平炉に起重機で針金や屑鉄を送り込み、石炭などを燃料に融解させる。1000度を超える平炉周辺での炎暑労働は危険の極み。制御盤の端子に触れて感電死した者もいた…。(続きは月刊イオ2019年12月号に掲載)
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。