審理継続が決定―九州無償化裁判控訴審第2回口頭弁論
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九州無償化裁判控訴審第2回口頭弁論が12月20日、福岡高等裁判所(福岡市)で行われ、約170人が足を運んだ。抽選の結果、92人が傍聴券を獲得。法廷では、原告側弁護団が第1準備書面と書証を提出し、弁護団の後藤富和弁護士が意見陳述を行った。
後藤弁護士ははじめに、自身と朝鮮学校との関わりについて言及。
2002年、日本人拉致事件が明らかになったあと、福岡を含む全国各地で朝鮮学校に通う子どもたちに対する嫌がらせ、特に女子生徒のチマチョゴリ制服が切り裂かれる事件が頻発した。子どもたちに対する差別、暴力を許してはならないとの思いから、司法修習を終えたばかりの55期の弁護士で「在日コリアンの子ども達に対する嫌がらせを許さない若手弁護士の会」を結成し、朝鮮学校を訪問して聞き取り調査を行った-。
そこから朝鮮学校との交流が始まったと後藤弁護士は話した。
また、生徒一人ひとりの個性を伸ばすのびのびとした教育、差別に負けず明るい笑顔を見せてくれる子どもたちの顔など、朝鮮学校に行くことで初めて感じられるものがあると続けた。
後藤弁護士は他にも、福岡市内の公立中学校で使用され、全国のおよそ6割の中学校で採用されている『新編 新しい社会 公民』の教科書を紹介。同教科書には「在日韓国・朝鮮人への差別の撤廃」のページが設けられており、福岡朝鮮初中級学校の卒業生が書いた作文(2003年度当時。「第23回全国中学生人権作文コンテスト」で法務副大臣賞を受賞)も全文掲載されている。
後藤弁護士は、「中学校で社会を学んだ日本の子どもたちに、高校無償化から朝鮮学校だけが除外されていることをどう説明すればいいのでしょうか」と裁判官へ問いを投げかけた。
後藤弁護士は最後に、当たり前の権利を当たり前に要求している控訴人が負けるはずないとしながら、「この裁判で試されているのは、在日コリアンの方々の主張の正しさや要求実現に向けた努力ではありません。…この裁判で問われているのは私たち日本人とりわけ日本の司法の健全性です」とのべた。
「高校無償化適用はいずれ必ず実現します。その時、歴史を振り返り、司法が人権保障の役割を果たしたと評価されるのでしょうか、それとも役割を放棄したと評価されるのでしょうか。私は、司法の一翼を担うものとして福岡の裁判所には人権保障の砦としての役割を果たし未来に向かって名誉ある地位を占めて頂きたいと願っています。そのためにも、ぜひ関係者の証言に耳を傾け、朝鮮学校に足を運んでいただき、あの自由で温かな空気に触れて頂きたいと思っています」(後藤弁護士)
意見陳述のあと、次回期日について裁判長から提起があった。第3回口頭弁論が2月14日に決定すると、弁護団からは安堵の溜息と笑顔が漏れた。この瞬間まで次回期日が設けられるかどうか確定的ではなく、弁護団は今回で結審になることも想定していたという。
弁護団はそのまま、この間に裁判官に求めていた証人申請と検証の申し出が却下されたことについて質問。証人としては、▼無償化制度設計にも携わった元文部科学事務次官の前川喜平氏、▼朝鮮高校を不指定とした当事者である元文科大臣の下村博文氏、▼本件不指定処分がなされた当時、学校法人福岡朝鮮学園の総務部長を務めていた尹慶龍氏ーを挙げていた。
これらに対し、裁判長が「必要性なしだと判断したから」と説明になっていない返答をすると、弁護団側は「どういう判断があって『必要性がない』としたのか」と何度も食い下がった。冒頭の意見陳述も含め、弁護団は地裁段階から何度も裁判官たち自らが直接、朝鮮学校と子どもたちの姿を見たり、内情を知ることの必要性について訴えてきたからだ。
しかし、裁判長は最後まで「判断内容に関することなので答えられない」「現段階で裁判所として必要ないと判断したから」とのみ繰り返し、質問に答えることはなかった。傍聴席に座った同胞や日本市民らは裁判の対応が不誠実に感じたのか、声を荒げて抗議したが、職員に制止され閉廷となった。
その後に開かれた報告集会では、弁護団の金敏寛事務局長が傍聴に漏れた人々のために法廷でのやりとりについて報告した。また、体調を崩して休養中の服部弘昭弁護団長に代わり、今回から正式に後藤富和弁護士が弁護団長を務める旨を発表した。
後藤弁護団長は、改めて本日の内容について説明。「裁判所はもう審理を打ち切ろうと決めていたと思う。しかし、事務局長が冒頭に意見陳述を押し込んで、まさか今日結審したら許さんよというような空気を作った。また傍聴席を見たら皆さんの怒った顔が並んでいて、そういった皆さんの勢いが今日の結審というのを、裁判長の心を変えたのではないかと考えている」と言葉を結んだ。
朴憲浩弁護士は、証人申請や検証の申し出が却下されたことについて補足で言及。「この点は怒りだが、ポジティブに考えるなら、これまで行政が審査してきた資料を見れば朝鮮学校が適用されるべきだというのは明らかに分かる。そういう判断の前提があれば、確かに『必要ない』という形でもこちらが勝つことはできる。証人を見るまでもなく明らかにこちらが勝っていると。ポジティブに捉えればまだ希望は見えるし、これからも審理は続行していくので、引き続き皆さんが集まって叫んで、一緒に頑張っていけたら」(朴弁護士)。
最後に連帯のあいさつがあった。南の支援団体「조선학교와 함께하는 시민모임 봄(朝鮮学校と共にする市民の会・春)」と蔚山のキョレハナの人々がそれぞれ登場し、色とりどりの横断幕やカードを持って同胞、日本市民らにエールを送った。
改めて、控訴審第3回口頭弁論は2月14日の13時半から福岡高裁にて行われる。次回期日までに、国が主張する「不当な支配」の解釈について、岡山大学法学部の堀口悟郎准教授による意見書を提出する予定だ。弁護団は、一つひとつ駒を進め勝訴のためにたたかい続ける決意を新たにしていた。(理)