同胞無年金障害者たちが、厚生労働大臣に要望書
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無年金状態に置かれている同胞障害者たちが2月14日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で厚生労働省の職員たちと面談。加藤勝信・厚生労働大臣宛ての要望書を提出し、当事者が高齢化するなか、政府の早急な対応を求めた。
1982年の日本の難民条約批准に伴い、社会保障を受ける権利は、「日本国籍を有する者」から、「日本に居住する者」に大きく広がったが、日本政府は形式的に国籍条項を撤廃しただけで、国籍条項による不利益を回復する措置(経過措置)を取らなかった。
結果、1982年1月の時点で20歳を超えていた在日コリアンをはじめとする外国籍障害者は、障害基礎年金を受けることができず、厳しい生活を強いられている(現在58歳以上)。
要望書を提出したのは、「年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会」「在日無年金問題の解決をめざす会・京都」「障害年金の国籍条項を撤廃させる会」「在日外国人の年金差別をなくす会」、「在日韓国・朝鮮人の年金差別に抗議する会」の5団体で、全国連絡会の李幸宏代表、慎英弘・四天王寺大学名誉教授をはじめとする6人の同胞障害者、無年金者の家族や日本人支援者ら約20人が要望に訪れた。厚生労働省からは国際年金課などから5人が対応した。
福岡、大阪、愛知、京都から上京した当事者たちは、約40年もの間、無年金者たちを放置し続けている日本政府と国会の無策に憤り、「のちの世代に同じ思いをさせたくない」と切実に訴えていた。
京都から来た60代の同胞女性は、夫婦ともに聴覚障害を抱えている。「二十歳から仕事に就いていたが、友人の女性に『年金をもらえるでしょ』と聞かれ、何のことがわからず、役所に行ったら、両手でバツと示された。もらえない理由もはっきり示してくれないし、納得できる説明はなく不信感を持っている。お金が欲しいと言っているのではない。年金を受けられるのは当然だと思っている」。のちに、女性は日本国籍を取得したら年金を受給できると思い、「帰化」したもののダメだった。1982年の時点で20歳を超えていた外国籍障害者の場合、国籍を変えても年金を受給できないことを知らなかったのだ。「納得できる理由を聞きたい―」。
12歳で聴力を失った東京都在住の久保守良さん(68)は韓国の出身。結婚を機に30代半ばから日本に暮らし仕事を続けてきたが、思うようにいかず、「障害者と朝鮮人」という二重の差別に苦しんできた。「日本人より賃金が少なく、悔しい思いをしてきた。日本国籍を取得し、年金をかけてきたが、ふた月で5万円の少額だ」。
連絡会が提出した要望書は、5項目で、
①2004年に定められた「特定障害者に対する特別給付金支給法」の附則にあるように、在日無年金障害者に対する救済について、何をどのように検討し、今後どうするかについて説明してほしい
②1926年4月1日以前に生まれた無年金者の数、在日外国人のうちの身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳を持つ者の数を示してほしい
③在日無年金者の生活実態について説明してほしい。自治体が独自に行っている救済策について、どのように把握しているか示してほしい
④日本は、国連の各人権機関から何度も在日外国人無年金問題を解決するよう勧告を受けている。国際的な潮流や旧宗主国の責任について説明してほしい
⑤「年金生活者給付金」が年金受給者のみを対象としているので、無年金者は対象にならない。増税による生活苦は誰が見てもわかる。年金受給者以外にも対象を広げてほしい
2時間半にわたる面談を通じて、厚労省側から、経過措置を設けなかった反省の弁は一切なく、救済策については、「検討中」などと交わされる始末。議論は平行線で、実のある回答はなかった。会場からは「やる気がないのか」という怒りの声も飛び出した。
支援者たちは、無年金者への福祉給付金を支給している自治体の独自策や、16大都道府県障害福祉主管課長会議で無年金障害者、高齢者への救済を求める要望書が出ていることを挙げ、政府が自治体の要望をしっかり把握することや、2018年8月30日に出された国連人種差別撤廃委員会の勧告を早期に実現するよう、繰り返し求めた。
車いすに乗って福岡から訪れた全国連絡会代表の李幸宏さんは、「もうすぐ60になる。年金をもらえないまま、子育てをしてきた。家族に苦労をかけ、理不尽な思いを抱えながら生きてきた。政府は私たちが亡くなるのを待っているのか。何とか方策を立てるときだ」と訴えた。
同席した尾辻かな子・衆議院議員は、「無年金問題は政治が取り残した問題であり、今日の話はもっと多くの国会議員が聞くべきだと感じた。附則について立法の場で議論できなかったことを反省している。他の議員にも広げていきたい」と語った。
連絡会は、今年10月にも引き続き要望を行い、政府の対応を促したいとしている。(瑛)