広島無償化裁判控訴審が結審、10月16日に判決
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国が朝鮮高校を高校無償化・就学支援金支給制度の適用対象から外したのは違法として、広島朝鮮初中高級学校を運営する学校法人広島朝鮮学園と同校卒業生らが国に対して処分の取り消しや損害賠償などを求めた訴訟(以下、広島無償化裁判)の控訴審が6月12日、結審した。
この日、14時から広島高等裁判所で第9回口頭弁論が行われ、三木昌之裁判長が足かけ2年にわたる控訴審での弁論終結を宣言した。判決の言い渡しは10月16日15時から広島高裁で行われる。
広島無償化裁判は、2013年8月1日の広島地裁への提訴から始まり、17回の口頭弁論を重ねて17年3月8日に結審。広島地裁は同年7月19日、原告全面敗訴の判決を言い渡した。原告側は8月1日、地裁判決を不服として控訴。翌18年5月15日に控訴審の第1回口頭弁論が広島高裁で開かれた。
朝鮮高校無償化裁判は広島、東京、愛知、大阪、福岡の5ヵ所で起こされた。東京と大阪では最高裁で原告側敗訴が確定している。愛知は一審、二審とも原告敗訴で、現在、最高裁に上告中。一審で原告敗訴となった福岡(九州)は控訴審の第4回口頭弁論が7月10日に予定されている。
原告、最終準備書面を提出
不指定処分によって侵害される権利と、その目的は何か
この日、控訴人側(原告の広島朝鮮学園と卒業生側)は、最終準備書面(準備書面9)を提出。法廷では控訴人代理人である足立修一弁護団長が意見陳述を行った。
足立弁護士は、控訴審を締めくくるにあたって、本件を見る視点―①本件不指定処分によって侵害される権利と、②本件不指定処分の真の目的は何か―という点についてのべた。
①については、就学支援金の受給権者は生徒であることを強調し、「不指定処分は生徒の受給権を不当にはく奪している」とのべた。また、下村文部科学大臣(当時)は朝鮮学校に問題があったという事実を認定し、指摘するのではなく、問題がありそうだという理由で就学支援金を支給しないことを決めたが、生徒の就学支援金受給を否定しなければならないほどの問題が朝鮮学校にあるのか、不指定処分は生徒の受給権を侵害するのではないかという観点でまず判断しなくてはいけないとのべた。
この点で、「広島の朝鮮学校を所轄する広島県知事が朝鮮学校に対して不指定処分に相当するような事実を認定し、是正を指導した事実はなかったということが考慮されなくてはならない」と主張した。
②については、下村大臣が朝鮮学校を支給対象に指定する根拠となる文科省令(施行規則1条1項2号ハ。以下、規定ハ)を削除した理由は何だったのか、考えなくてはいけないとした。
前川喜平元文科事務次官の陳述書によると、規定ハは朝鮮学校を無償化の対象校に指定するための根拠規定として置かれた。しかし、下村大臣はそのことを逆手にとって、規定ハの適用が想定されるのが朝鮮学校であり、朝鮮学校が不指定となれば規定ハを残しておく意味がないので削除したとしている。
しかし、規定ハの対象の外国人学校は朝鮮学校以外にもう2校あった。
また、将来、規定ハのカテゴリーで無償化適用を受けようとする学校が出てくることも考えられ、朝鮮学校の指定の可否とは別の独自の存在意義があった。にもかかわらず規定ハを削除したことは、「朝鮮高校が無償化適用を求めて毎年申請し、毎年訴訟を起こされることを回避するため、朝鮮高校を永遠に無償化の対象としないためと考えるのが相当だ」とのべた。
足立弁護士は、外国人学校を含めて教育の機会均等を実現するという高校無償化法の趣旨からすれば、「高等学校の課程に類する課程を置く」学校の生徒にはあまねく無償化が認められるべきだと主張。規定ハの削除は、「将来的に規定ハで無償化適用を受けようとする学校が現われ、その学校に通う生徒の受給権を侵してまでも、朝鮮学校を絶対に無償化適用させないという強い意志をもって行った極めて違法性の高い処分、決定である」と強調した。
続けて足立弁護士は、地裁判決は規定ハ削除の法的な問題について判示していないこと、本件処分理由は「規定ハ削除」および本件規程13条不適合となっており、「規定ハ削除」または「本件規程13条不適合」となっていないことを挙げ、「規定ハ削除を処分理由として挙げることの当否、論理関係について判示しないのは、理由を脱漏させた判決だった」と原判決を批判した。
最後に足立弁護士は、この訴訟を取り巻く状況について触れ、本件不指定処分は「日本政府による朝鮮学校攻撃、排除の歴史に名を刻む極めて不当な処分である」とした。そして、一審判決のように、物事の本質を見ず、この訴訟に関わる歴史的経緯を踏まえず、本件不指定処分の内容を正しく把握せず、形式的な判断をすることは許されないとのべ、裁判官に向けて公平な判断をくだすよう求めた。
規程13条適合性をめぐる問題について
続いて、平田かおり弁護士が、広島地裁判決が本件不指定処分に誤りはないとしたもう一つの理由である規程13条の適合性をめぐる問題について意見陳述を行った。
平田弁護士は、不指定処分の理由となっている「本件規程13条に適合すると認めるに至らない」という点について、「控訴審では規程13条の法的性質が論点となっている」と指摘。「本件規程に法規範性がないのであれば、法律の委任の範囲内かどうか以前の問題であり、本件規程は行政組織の内部で作成される要綱と同様の行政基準となるに過ぎず、許認可等を求める者を拘束せず、裁判所もこれに拘束されないということになる」とのべた。
平田弁護士は、
▼本件規程は法令の制定・公布と同じ手続きが取られておらず、「官報」の「官庁報告」欄に掲載されているに過ぎないこと、
▼本来であれば公布日順に番号が付されるところ、本件規程は番号が付されていないこと、
▼本件規程は決定日(11月5日)から施行すると定められているにも関わらず、国は「本件規程は公布のあった平成22年11月15日以降、法規命令としての効力を有している」とし、発効日と施行日が異なるというおよそ考えられない主張をせざるをえなくなっていることなどを挙げて、「本件規程は法規範性が否定される」と断じた。
さらに平田弁護士は、「そもそも規程13条の『…指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない』という文言を素直に読めば、指定された学校は『学校運営を適正に行わなければならない』という当たり前のことが書かれているだけで、指定する際に満たすべき要件を定めたものとは読むことはできない」と主張。
就学支援金の充当が正しく行われているかを問題にしている規程13条は、「生徒に就学支援金が支給されることが決まった後の問題」であり、この条文は「指定後の運営指針を示したものと解するのが相当で、指定するために満たすべき要件と見ることはできない」とのべた。そしてこの理解は、高校無償化法の制定時の国会審議、制定後の内閣が発出した質問主意書に対する答弁書の内容とも一致すると指摘した。
両弁護士の陳述に続いて、本訴訟の原告である広島朝鮮学園の金英雄理事長と広島朝鮮初中高級学校の卒業生がそれぞれ意見陳述を行った。金理事長は裁判官に向けて、「子どもたちから民族教育の学びの場を奪わないで」と訴え、卒業生も「未来に恥ずかしくない公正な判決」を求めた。
口頭弁論終了後、広島弁護士会館で記者会見が行われた。
夕方には、広島無償化裁判を支援する会が主催する報告集会が広島朝鮮初中高級学校で催された。(相)