日本が報道できない北南・朝米関係の今/6.15共同宣言発表20周年記念 共同討論会
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「6.15共同宣言発表20周年記念 共同討論会~現情勢と北南宣言履行のための課題」が6月20日、東京都内の文京区民センターで行われた(主催=6.15共同宣言実践 日本地域委員会)。会場には司会と2人の発言者が登壇したほか、6.15共同宣言実践 南側委員会もインターネットを通じて参加した。
はじめに、6.15共同宣言実践 海外側委員会委員長(日本地域委員会議長)の孫亨根・在日韓国民主統一連合議長があいさつに立った。
孫委員長は、「6.15共同宣言発表20周年を迎えたいま、破たん直前になった南北関係を見た同胞たちは大きな衝撃に包まれている。関係発展の象徴であった南北共同連絡事務所が爆破された原因は、米国による朝鮮民主主義人民共和国への敵対政策と、2年間にわたって板門店宣言と平壌宣言の合意履行を避け、米国の顔色だけを窺って対敵政策を合作してきた文在寅政権にある」としながら、民族の運命はわれわれ自らの手で決定するという民族自主の原則に立つべきだと現在の課題を共有した。
討論会の司会は朝鮮新報社の金志永編集局長が務めた。金局長は、「北南関係悪化の原因はたやすく指摘することができる。しかし第三者的な立場で追及だけしていても情勢は好転しない。6.15共同宣言には《통일의 주인은 우리 민족(統一の主人は私たち民族)》だとある。外部の干渉と支配を終息させ、北と南・当局と民間が一緒になって民族の自主権を確立するという統一運動の原点に立って今日の情勢を分析し、打開策を探していかなければならない—そういう趣旨で本日の討論会を運営していく」とのべた。
続いて4人が討論。▼朝鮮大学校・朝鮮問題研究センターの李柄輝教授が「北の正面突破戦と北米対決、そして対南政策から対敵政策への転換について」、▼6.15共同宣言実践 南側委員会のキム・ギョンミン常任代表(韓国YMCA全国連盟事務総長)が「4月総選の結果と文在寅政権の対北政策、南北関係破局の原因」、▼恵泉女学園大学の李泳采教授が「破局の危機に直面した南北関係をどのように克服すべきか」、▼6.15共同宣言実践 南側委員会のハン・チュンモク常任代表(韓国進歩連帯常任代表)が「南北海外の連帯連合運動の課題」のタイトルでそれぞれ発言した。以下に要旨をまとめる。
“停戦体制を理解した上で情勢を見るべき”
李柄輝教授
情勢がこのように複雑化したときこそ、歴史の流れの中に現在を位置づけることで、確実な歩みを把握することができる。その上で、これまでの北南関係はどこまでも停戦体制に則ったものだったということを理解する必要がある。
1953年7月27日に成立した朝鮮戦争の停戦協定。これは戦闘を一時中断している状態に過ぎない。これにより、朝鮮と米国の敵対関係、交戦関係は持続した。その中で米国は韓国を同盟国にし、東アジアのもう一つの従属国である日本と条約を結ばせた。
朝米敵対関係、韓米従属関係、そして韓日条約。この3つの関係性を内包する体制が停戦体制であり、これらが朝鮮半島情勢に影響を与えてきた。
しかし2018 年の板門店宣言をはじめとする激動の流れにより、停戦体制がようやく揺るいできた。だが歴史が進歩的に変化しようとするとき、変化させまいとする反動の力もまた強く作用する。北南関係が好転すると思ったが、米・日・韓の保守勢力が文在寅政権への圧迫を強めた。そして今日に至るまで、関係は進展どころか後退する一方だ。
なぜそうなったのか。古い冷戦が収束していないにも関わらず、中米による新しい冷戦が始まっていることが挙げられる。米国は、中国が東アジアで勢力を拡大するのを防ぎたい。この新しい冷戦の最前線となっている東アジアで韓国の地政学的位置を点とした攻防戦が行われている。この攻防戦を舞台として進歩勢力と保守勢力の熾烈な争いが繰り広げられている。
韓米ワーキンググループ(朝鮮の非核化と南北協力を議論するとする、韓米政府間による実務協議体)も、韓国国内の保守政党による横やりも、安倍政権の文大統領叩きも同じ脈略から起こっている。その度に北は南の肩を持ち、各方面への的確な指摘を労働新聞などを通して発してきた。しかし文政権はそれに応えてこなかった。それが北の正面突破戦宣布につながっている。
さらに5月末の、脱北者団体による敵対的なビラ散布。金与正第1副部長を始め、相次いで南を批判する談話が発表されている。これら一連の流れを見ると、板門店宣言以来、推進されてきた北南間の和平は一旦終わったものと見なければいけない。
この2年間の総括をするなら、文大統領はこれまで民族自主を言葉では繰り返してきたが、米国が設定してくれた範囲の中でのことであり、その枠を乗り越えられはしなかった。これから情勢は緊張するだろうが、北は軍事行動計画について公言している。戦略核武器の開発継続についても言明している。文政権は合意通りの行動をすべきだ。言葉ではなく、真剣に民族自主の原則に従って行動すれば第2の板門店時代を開くことができる。
“南北関係破綻の原因は文政権に”
キム・ギョンミン常任代表
文政権は、対北政策における最優先的価値を“平和”とし、課題として“北の核問題解決”を優先し、南北関係を徹底してこれと結びつけてきた。南北間の独自的な協力というよりは、米国との共同補助、“確固たる韓米同盟と強い国防力に基づいた安保”を重視する政策を進めてきた。
こうした文政権の立場を北側がある程度は受容しつつ、南北関係の根本的な原則である民族自主を中心に据え、南北関係の改善のために北と南ができる事項を入れ込んだものが2018年の南北首脳会談とそれによる共同宣言だった。しかし18年に韓米ワーキンググループが作られたことで、合意の履行と関連して米国優先なのか民族優先なのかという葛藤が文政権の中で度々浮かび上がった。
韓国は18年の合意以降、南北合意関連の基準を米国の立場と対北政策という立場から見て、その判断の中でのみ進めてきた。また、サードの追加配置、細菌戦実験室の運営、駐韓米軍駐屯費増額、F-35追加導入、歴代級の国防費増額、韓米連合軍事訓練の持続など、米国の覇権的要求を受け入れている。北側は、南に対し当事者として責任を持って合意履行に努めるよう強調してきた。
しかし、コロナによって大規模な韓米連合軍事訓練が延期されたのに韓国軍は独自訓練ときて4.5.6月に強行。これらは南北共同宣言を事実上破棄する行動になる。脱北者団体によるビラ散布を放置してきたことも、南北合意履行にどれだけ不誠実だったのかを端的に見せている。
“進歩勢力が強い今こそチャンスのとき”
李泳采教授
文大統領はとても現実的な人間だが、外交にはとても弱いスタイル。しかし歴史認識に関しては、自身が人権弁護士からキャリアが始まっていることもあり、専門と言える。光州虐殺問題や韓国の国家暴力の問題に関しては、これまでにない歴史清算を実現してきた。
韓国では南北関係で進展があっても、その後に保守政権にとって代わられると後退してしまっていた。文大統領は就任後2年間は国会を掌握できなかったが、今回の総選では全体議席数300席のうち、進歩与党180席、進歩保守派も加えれば190席と、全体の75%を掌握した。今回の国会では板門店宣言と軍事合意書を批准する、文大統領にとってこれが一番の使命である。
しかし、それに乗り出そうとしていた頃、突然目の前で南北共同連絡事務所が爆破された。これは、文政権が考えていた時間の流れと、北側が考えていたチャンスの時間の乖離が大きかったことを表している。北は南に時間的チャンスを与えてきたが、南は新型コロナの問題があるため時間稼ぎができると安心していたのではないか。
北に対してだけ合意履行を求め、自分たちは行動を避ける南に対し、一連の反発は当然。合意履行のためには、北に対する提案よりも韓国と米国が自らの誠意を見せなければ難しい。
戦後の分断体制は、2018年の画期的な流れでも解決できないほど根が深い問題だったのだろう。ロウソク闘争によって進歩政党が誕生したように、韓国の市民の力で米国を動かし、北の信頼を取り戻さなければならない。
“合意履行のため、市民も力合わせ”
ハン・チュンモク常任代表
南でのロウソク闘争と政治秩序の再編、北の対米抑制力確保と北米首脳会談への牽引は朝鮮半島に影響を及ぼしていた米国の覇権的支配体系を大きく揺るがした。一時は朝鮮半島の戦争構造の解体、対北敵対同盟構造の解体へと向かうのではないかという期待が高まった。
しかし、米国は対北政策に固執し、韓米ワーキンググループ、保守勢力に対する支援など南北関係に露骨に干渉している。衰退している米国覇権政策を支えるために韓国を徹底的に利用している。
南北間での合意履行が一向に進まず時間だけが過ぎていく中、北側は正面突破戦を宣言した。米国には、核抑制力を持って自力で突破していく姿勢を見せ、南には共同連絡事務所の爆破、開城金剛山地域への軍隊駐屯など、南北関係の断絶・南北合意に基づく措置の無効化を表明する行動を取った。これは2年間の決算に値する行動である。
当面の課題は、積極的な反米自主運動を通して米国の対北政策、朝鮮半島支配政策をやめさせることだ。また、南北共同宣言の実現のために総力を尽くさなければならない。
去る総選により、韓国では保守勢力の反発に神経をつかわず改革政策を展開できる環境は十分に整ったと言える。文政権が米国の覇権政策を口実に、合意履行から逃げないよう批判を繰り広げなくてはならない。
同時に国家保安法といった悪法を精算し、ビラ散布禁止法といった敵対行為をこそ防止する法律の制定を実現させるべきだ。一方で、南・北・海外同胞たちの連帯も強化する努力をし、さらに国際的な次元での反戦平和運動も推し進めなければならない。激動する情勢に対する認識、今後の運動方針に関する討論を南・北・海外で活性化し意見を一致させ、さまざまなチャンスや条件を積極的に生かしながら団結していこう。
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最後に李柄輝教授が、在日朝鮮人は朝鮮半島情勢をどう見るべきかを語った。
「日本において、朝鮮半島情勢悪化の影響を一番に受けるのが在日同胞たちだ。過去も現在もそうだが、日本社会では『結局、北がいつも約束を破って平和を壊している』という声が上がりやすい。そんなときに『それも一理あるな』と思ってしまうことが負けだ。現在の事態を正しく見ることが大事だし、なぜ情勢が後退したのかという真実について知り、それをしっかり発信することが重要だ」。
日本のメディアが伝えない、いや専門家不在の現在の言論状況では報道したくてもできないであろう北南・朝米関係について、多角的な解説を聞くことができる有意義な場だった。(理)