九州無償化裁判控訴審が結審/10月30日に判決
広告
九州無償化裁判控訴審の第4回口頭弁論が、7月10日、福岡高等裁判所(福岡市)101号法廷で行われ、結審を迎えた。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、今回は傍聴できる人数が制限されて35席のみに。80人以上が現地へ駆けつけ抽選の列に並んだ。福岡朝鮮初級学校の6年生、九州朝鮮中高級学校の高級部3年生も裁判所を訪れた。
法廷では、控訴人側弁護団が第3準備書面、第4準備書面、書証を提出した。
第3準備書面は、教育法学者である世取山洋介・新潟大学准教授の意見書を基に弁護団が主張をまとめたもの。書面では、九州無償化裁判の地裁を含め、「全国の朝鮮学校における同種訴訟においては、争点の設定が不正確であるばかりか、本件不指定処分が朝鮮高校だけを狙い撃ちにした差別的取り扱いであることに目を背けたため、不当な判断がなされてきた」と指摘。
さらに、国が「不当な支配」を理由に持ち出して朝鮮高校のみを不指定にしたことは「違法となることは明らかである」とした上で、「そもそも、本件不指定処分こそが朝鮮高校に対する『不当な支配』である」と追及した。
今回が結審になることを予想して作成された第4準備書面は、高校無償化法が成立する前から朝鮮高校が不指定処分を受けるまでの客観的な事実経緯を改めて振り返る内容となった。特に、当時の下村博文文部科学大臣の発言と対応する形で朝鮮高校が制度から排除されていった経緯が丁寧に示された。
同書面では、国による不指定処分が新たな差別問題を生んでいることにも踏み込んだ。▼国から地方自治体に発せられた「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」との通知(「3.29通知」)、▼幼保無償化からの除外、▼さいたま市による埼玉朝鮮幼稚園へのマスク不配布、▼学生支援緊急給付金対象からの朝鮮大学校除外―など、国と地方自治体によるもの以外に、福岡朝鮮初級学校の窓ガラスへの投石、嫌がらせ電話やメールといった市民からの差別行為があることにも触れた。
また、現在起こっている、こうした事例の本質について「各種学校として長年にわたって認知され続けてきた朝鮮学校を法理屈によって消滅させることができなくなった日本政府は、他の学校法人に認められる各種制度から朝鮮学校を除外するような差別的施策を持ち出すことにより、朝鮮学校を消滅させようとしている。その典型例が本件無償化制度からの朝鮮学校外しであり、自治体に対する補助金を見直すよう通知したことであり、朝鮮学校の入口である朝鮮幼稚園を幼保無償化制度から除外することである」と明確に突いている。
この日、法廷では自身も九州中高卒業生であり、弁護団の事務局長を務める金敏寛弁護士が最後の意見陳述に立った。金弁護士は上記の内容に触れつつ、一方で「ともに頑張ろう」と応援してくれる日本市民、地域行政があることも紹介した。
また、国が朝鮮高校を不指定にした理由として挙げている「規定ハの削除」と「規程13条に適合すると認めるに至らなかった」という2つの理由の関係性についても再度強調。金弁護士は「下村文科大臣自身が、規則ハ号を削除してこれを理由に朝鮮高校を不指定処分にすると明言した」こと、しかし「これだと朝鮮学校側が訴訟提起した際に、裁判所による司法判断に耐えることができないことが明白だったために、文科省官僚が、裁判所を欺くかのように、本件規程13条不適合性の理由をとってつけたにすぎない」ことをのべ、「裁判所は文科省官僚に騙されず、また下村文科大臣に忖度することなく、堂々と判断すべき」だと訴えた。
金弁護士は、「2013年12月の提訴から、約7年にもわたって本件訴訟を続けていますが、ようやく、被控訴人による本件不指定処分の違法性が明らかになると信じています」と結んだ。
最後に、裁判官から判決言い渡しの期日が10月30日の13時半からであると伝えられ閉廷した。
裁判後、福岡高裁近くの福岡市科学館・サイエンスホールにて報告集会が行われた。
弁護団の後藤富和弁護団長は、「私たちは憲法の理念に照らして、正しいことだけを真っ直ぐに主張してきた。法的な主張で負ける要素が全く見当たらない。しかし、安倍政権のもとで集められた裁判官ばかり。かれらがどれだけ自分の人生をかけられるか、それが試されていると思う」と話した。
続いて、弁護士1年目から現在まで、ともにたたかってきた清田美喜弁護士がマイクをとった。清田弁護士は、自分自身もこの裁判を通じて朝鮮学校をゼロから理解していったと振り返りつつ、「それでもまだ時々、自分は全然変わっていないなと思う時がある」とのべた。
「この高裁に来て以降にあった出来事だが、ある日、買物をしていたら偶然、朝鮮学校の生徒たちが前にいて、そのカバンに朝鮮語で書かれた名前のプレートがついているのが見えた。『学校でつけているのを取り忘れてしまったんだ、言わなきゃ』と思って伝えたが、すごくきょとんとした反応だった。その時、この子たちは普通のことをしていただけなんだと。よく考えたら自分の名前を鞄につけて歩くのは当たり前のことなのに、私はなぜそれを『隠さなきゃいけない』と思ったんだろうと、とてもショックだった。みんなが朝鮮人として外で堂々と自分の名前を名乗って生きているのに、私は約7年間この裁判に携わっていながら、それを本当の意味で理解していなかった」(清田弁護士)
終わりに、「日本の社会を変えるためにはみんなの力が必要。私たちももっと頑張らないといけない」と結んだ。
この日は新型コロナ感染予防対策として、本会場と各地をリモートでつなぐ試みがなされた。東京で集会のようすを視聴していた「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」の田中宏代表は、「まともな裁判官であれば、しっかりとした判決を書いてくれるはずだ。期待したい」とエールを送った。東京のメンバーたちはこのあと、文科省前の金曜行動へ向かった。
また、九州中高の体育館から視聴していた柴田正彦さん(桂川町議会議員)は、長年、朝鮮学校を支援してきたことを回想しながら、「地裁の時から、日本人として情けないというか恥ずかしい思いでいっぱいだった」と怒りをにじませた。「うちの国の地方が出した判決、日本人として見届けます。10月30日、空けておきます」と強く話した。
次に、大分県教職員組合からの応援メッセージが代読された。
「大分県教職員組合でも度重なる不当な弾圧に対し、法廷闘争を繰り広げてきた歴史がある。60年、70年代以降、権力に掌握されている司法判断によって何度も阻まれてきたが、法廷での審理が続く中で、多くの仲間たちと共に起こした大衆運動は社会に大きな影響を与えてきた。…(中略)全国の同様の闘いの現状を見れば、司法の現状は目を覆うものばかりですが、これまでの闘いは必ず裁判長の勇気につながっていると確信します」との言葉が、同組合の岡部勝也執行委員長から送られた。
続いて「朝鮮学校を支援する山口県ネットワーク」の内岡貞雄代表が発言。内岡さんは九州朝高生たちと街頭に立ちながら差別反対を訴え続けてきたことにふれ、諦めず、この運動を大きく広げていく必要性があると話した。その上で、ネットワークメンバーたちが約半年かけて作成した冊子を紹介。山口県における朝鮮学校支援の取り組み、差別反対闘争についてまとめられている。ぜひ多くの人に手を取って、周りの人にも伝えてほしいと呼びかけた。
閉会の前に、金敏寛弁護士が再度自身の思いを伝えた。「幼保無償化から朝鮮幼稚園を排除し、大学生への緊急支援金対象からも朝鮮大学生を除外し…日本政府は民族教育の入り口から出口まで差別を続けている。見落としてはいけないのは、そこで学ぶ子どもたち一人ひとりがいるということだ。高校無償化裁判は日本各地5ヵ所で行われてきたが、高裁判決が残っているのは福岡と広島のみ。可能であれば、今までで一番多くの人が集まって福岡高裁での判決を迎えたい」。
***
報告集会のあと、同会場で「福岡地区朝鮮学校を支援する会」の総会も行われた。(理)
在日朝鮮人の方に対する差別は日本を「世界中で戦争のできる美しい国」にするアメリカ追随での日本帝国主義復活と一体だと思う。基本的人権ではなく差別ができる国民を作ることが戦争政策で肝要です。日本の民主主義の根幹に関わる問題であり国家システムのレッドパージです。許せません。勝訴を祈ります。