近畿出張記②
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近畿出張に行った際、8月26日に自叙伝『ぼくは挑戦人』を出版したプロパフォーマー・ちゃんへん.さんを取材した。
24日、大阪へ向かう途中に本の出版を知り、その場でアポの連絡を。SNSのダイレクトメールで取材依頼をしたのだが、あろうことか私の通知がオフになっており、ちゃんへん.さんからの返信に気づかず…。いろいろと気を使っていただき、東京へ帰る前に取材することができた。
26日、お昼過ぎまで取材をした後、大阪の蔦屋書店にてまだ棚に入る前の本書を購入。
本の内容から派生して、興味深い話、おもしろい話をたくさん聞くことができた。
その一つとして、取材後ずっと頭から離れないのが、「活字の無駄遣い」という言葉。
戦時を体験したとあるおばあさんに言われた言葉だそう。曰く、昔は人に伝えるとき、距離が遠いほど時間もお金もかかるので、一度の手紙の中に必要な言葉を詰め込み、その中に深い意味を持つ文言があったが、今は楽に連絡が取れるようになりすぎて本当に大事なことを言わなくなった。今の若者は活字を無駄遣いしている。という内容。
「たしかに、あの時代に『今なにしてる?』『あのドラマみた?』『りょ!』みたいなやりとりしているはずがないですよね」と、笑い話をしながらも「戦時、戦後は無駄を楽しむひまがなかったんだな」と、当時の人たちに思いを馳せているのが印象深かった。(ちなみに私は「活字の無駄遣い」代表だな、と思いながら話を聞いていた)
ちゃんへん.さんは、この言葉を意識しながら、極力無駄のないように本を執筆したそうだ。
ショービジネス、マーケティングなども勉強しているそうで、朝鮮半島とユーラシア大陸を結ぶ鉄道計画の話にもなり、投資家たちの意見も聞かせてくれた。本の内容から少し脱線したかと思ったが、「国同士の利益をいったん捨てれば、離散家族は会えるのに」と話を戻す。
他にも、2018年に行われた北南、朝米首脳会談の話や映画「パッチギ」の話に盛り上がったり、本に書いていないご家族の話もたくさん聞くことができた。
今回の出張では大移動が多く、記事にも手をつけていなかったため、「日程を欲張りすぎたかもしれない…」と不安のなかでの取材だったのだけど、取材してよかったと心底思った。
『ぼくは挑戦人』のテーマは「共通点」。
難しい言葉、「1910年…」などの歴史記述や「朝鮮人とは…」といった定義はない。
また、本書に出てくる国、宗教、民族、人…なに一つ、だれ一人として否定をしていない。
あくまでちゃんへん.さんの人生経験、あくまで在日コリアンのうちの一人の話にすぎないが、在日コリアンのルーツの多様さ、葛藤が見えてくるはずだ。(詳しいインタビュー内容は10月号の著者インタビューに載っています)
在日コリアンだけでなく、日本にはこれからも外国からの移民が増えていくことだろう。多様なルーツ、アイデンティティをもつ人たちと暮らしていく上で、ネット上や本には載っていない共通点、一つの事実の記述には載っていないひとりひとりの気持ちに寄り添うためにも、ぜひ本書を手にとってほしい。
おそらく「人権」などのジャンルで扱われてると思うが、書店で売れ筋が伸びると「売れ筋!」のようなブースで注目を浴び、不特定多数の人の目につくということなので、時間のある方はぜひ書店に足を運んでいただきたい。(蘭)