近畿出張記③
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昨日、イオ10月号が出来あがったので、近畿出張記はこれで最後に。
近畿で取材した漫画家3人のうち、いわゆる無名の漫画家の金知世さんを紹介したい。
大阪朝鮮中高級学校で教員をしている知世さんは大学時代の学部の後輩で、寮の共同部屋で体育祭の大道具を一緒に作った思い出がある。
学生時代は民族管弦楽部に所属。美術を本格的に習ったことはないが、読んだ作品を絵にしたり、演奏する曲のイメージをつかむため絵で描いてみたりと「絵じゃないものを絵で表現する機会が民族教育のなかに多かった」そうだ。
学生時代からかのじょは、あれこれ道具を買い揃えるより、ある材料でできる限りのチャレンジをしていた。手際がよく、作業を大胆に進めていくのが印象的だったのだが、漫画作成も同様、部屋にあったA4のコピー用紙に手書きで描いていったという。また、ネーム(構成の下書きのようなもの)を描くために枠のあるノートを買ったものの、下書きなどの手間が性格に合わなかったそう。やはり大胆(笑)
知世さんを漫画の道へといざなったのは故・全哲さんの四コマ漫画。自身を「全哲漫画オタク」と称するかのじょは「범돌이와 범춘」という作品が一番好きだという。
「おそらく全哲先生の最後の発表作です。脳卒中になり、思うように手が動かなくなっても『子どもたちに笑顔を』と震える手で描いたことが、ガタガタの線に現れていて…この作品が全哲先生の人生観の表れだなと思っています」と語ってくれた。
同僚や、他校で教師をしている同級生からは「作品にちょうどいい挿絵がないので描いて」「教科書に載っているキャラクターの横顔バージョンを描いてほしい」と、授業に関連した依頼がよく来るという。教鞭をとるかたわらで自身の才能を趣味に留めず、教育現場や同胞社会で積極的に発揮しつづけるバイタリティに感服。
さて、若手の漫画家がどのようにして漫画を描き始めたのか、漫画にどんなテーマを込めているのか―。そして、懐かしの在日コリアン漫画など、在日コリアンの「漫画の世界」をイオ10月号で味わってください!(蘭)