【イオ ニュース PICK UP】「公的保障から排除される朝鮮学校」~無償化裁判判決控え、広島でオンライン講演会
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広島の高校無償化裁判控訴審の判決言い渡しを10月16日に控えて、裁判支援団体が主催するオンライン講演会「判決前に聞きたい~無償化裁判運動の「これまでとこれから」が9月22日に行われた。
講師を龍谷大学教授の金尚均さんが務めた。
主催は「#公正な判決を求める‘みんつな’リレー実行委員会」。「みんつな」とは「みんなでつなごう」の略で、広島朝鮮学校高校無償化裁判控訴審での公正な判決を求める世論を喚起するため、メッセージ写真をSNSを通じて広めている。
「無償化裁判運動の『これまでとこれから』」と題して講演した金尚均教授は冒頭、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元幹部で京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)の主犯格である人物が京都朝鮮学園に対して行った名誉棄損事件の裁判で、裁判所が拉致問題に言及した被告のヘイトスピーチに公益性を認めたことを批判。「高校無償化裁判でも、拉致問題や総聯という名前を出すと、思考を停止し、それらに対してあたかも敵を見るような扱いをする傾向が強まっている」と指摘し、次のようにのべた。「敵とは排除すべき攻撃客体で、人権を持つ主体ではない。敵に対する偏見をあおり、攻撃を正当化する。『私たちは差別していない、敵を排除しているだけだ』と。いまこのような状態が朝鮮学校に関わって日本社会で生じている」。
日本全国5ヵ所で争われてきた高校無償化裁判だが、現在まで東京、大阪、愛知の3ヵ所の裁判で最高裁による上告棄却の決定が出て原告敗訴が確定している。金教授は、「最高裁は高校無償化制度からの除外という重大な人権侵害を一顧だにしなかったが、広島裁判の控訴審判決は、10月30日に出る九州(福岡)裁判控訴審の判決と同様、このような状況を覆すうえで重要な意味を持つ」とのべた。
自身と朝鮮学校とのかかわりについて話した金教授は、「なぜ朝鮮学校が必要なのか」という問いに対する答えとして、「日本の植民地支配で奪われた民族的アイデンティティの回復と保持の営み」を挙げた。そして、「自分にとって朝鮮学校とは民族学校であり、自分の子を朝鮮学校に入れたことで、私自身も自分が何者なのかというアイデンティティを確立できた。日本社会で多様性が叫ばれているが、根っこのない多様性はない。自分が何者かということを突きつけられた時にしっかり自分自身に対して答えられる、これは非常に大事なことだ」と話した。
金教授は、朝鮮学校で学ぶ子どもたちは日本の植民地支配の生き証人であり、日本の歴史修正主義者たちや過去の植民地支配を肯定する人たちにとって「目の上のたんこぶ」であり、在特会が京都朝鮮学校を襲撃しにきた理由もここにあると指摘した。
金教授は、朝鮮学校は公的保障からの排除という重大な問題に直面しているとし、高校無償化制度からの除外、地方自治体による補助金支給からの排除、埼玉でのマスク不支給問題など新型コロナウイルス感染防止対策からの排除などを挙げた。そして、「権利を奪われた人たちは、その社会で存在はあっても人びとの認識の中からは消えていく。そもそも保障の対象のリストに入っていないため、公共的関心から消えてしまう」とのべた。
金教授は、2010年から始まった高校無償化制度は、原告側の立場からは、教育に係る経済的負担の軽減、教育を受ける機会の均等の保障という意義があるが、日本の公的助成の枠組みから除外されていることで不平等感、差別されているという意識を持たざるを得ないとのべた。
また、高校無償化制度において朝鮮学校を対象に指定する根拠となっていた規定ハを削除したことは「後出しじゃんけん」だと非難した。
一方で国側は朝鮮学校と朝鮮民主主義人民共和国および総聯との関係を問題視しており、裁判所も「在日朝鮮人が朝鮮学校で民族教育を受ける意義を否定しないが、朝鮮学校は北朝鮮の指導を受けた朝鮮総聯による不当な支配を受けている」と判断しているとした。そして、このような認識の背景には、2002年の拉致問題以降、強化されてきた総聯の反社会勢力としてのイメージがあり、無償化裁判にあたっても判決でこのような認識が通底していると指摘した。そのうえで金教授は、「朝鮮学校が朝鮮民主主義人民共和国、総聯と関係があるのは当然だと思っている。そもそも、なぜ共和国や総聯との関係が問題になるのか。総聯にはられた反社会勢力というレッテルをはがさないといけない」とのべた。(文・写真:李相英)
判決言い渡し後、16:00頃から広島弁護士会館で記者会見、18:30から 広島朝鮮初中高級学校体育館で報告集会が行われる。