【ニュースPICK UP】「国、地方自治体へさらなる働きかけを」―無償化連絡会・大阪主催のオンライン連続学習会vol.2
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「朝鮮学校無償化を求める連絡会・大阪」(無償化連絡会・大阪)が主催するオンライン連続学習会の第2回「『幼保無償化』の差別なき適用に向けた全国的な取り組みについて」が10月20日に行われた。
2019年10月1日より施行された「幼児教育・保育無償化」(以下、幼保無償化)制度から各種学校認可の幼児教育・保育施設が除外されている。各種学校認可の幼児施設は全国に89ヵ所あり、そのすべてが朝鮮学校、インターナショナルスクール、ブラジル学校などの外国人学校幼稚園で、そのうち40ヵ所が朝鮮幼稚園だ。今年に入って幼児教育類似施設に対する調査事業の実施や一部の地方都市議会において朝鮮学校幼稚班に対する独自の補助金が議決されるなど新たな動きも出てきている。今回のオンライン学習会は、幼保無償化の差別なき適用を求める取組み状況と成果、これからの展望を踏まえ、大阪における新たな取り組みを模索していこうという目的から企画された。
今回の学習会には幼保無償化中央対策委員会の任京河さん、幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会代表の宋恵淑さん、大阪府オモニ連絡会代表の金 亜紀さんの3名がパネリストとして出演。無償化連絡会・大阪事務局長の長崎由美子さんがコーディネーターを務めた。
「運動は第2ステージ、『本丸に迫るたたかい』へ」
学習会ではまず任京河さんが、幼保無償化制度が生まれた経緯、制度の仕組み、幼保無償化適用を求める運動の経過などについて解説した。
任さんは昨年10月、各種学校認可の外国人学校幼児施設が除外されたまま制度が施行されてから、昨年12月に100万人署名運動がスタートし、各地で集まった47万筆の署名を持って中央の関係府省に要請を行ったところまでを運動の第1ステージと規定した。そして、運動の第2ステージは本丸に迫るたたかい、▼政府与党(自民党・公明党)に対する要請と、▼地方自治体に対する要請だと指摘した。
文科省は、幼保無償化の対象にならなかった施設に対して来年4月から救済措置として新たな支援策を準備しており、そのための調査事業が、政府が地方自治体に委託する形で行われた。各自治体に対して、この調査事業の対象に朝鮮幼稚園などを含めるよう要請した結果、一部の地域で各種学校認可の外国人学校幼児施設も調査事業の対象となった。任さんは「日本全国のすべての自治体が朝鮮幼稚園を無視しようと考えているわけではない。理解を示している自治体も少なくない」と指摘。対象外施設への支援や対象範囲の拡大を行うよう国に要請した自治体や、外国人学校の幼稚園児にも幼保無償化を適用するよう自治体が国に働きかけることなどを求める請願を採択した議会などの例を挙げて、このような動きが今後、各地で増えていくことに期待を表明した。
国分寺市では今年、市内・市外を問わず、市に補助対象施設の登録をしている施設(幼児教育・保育の無償化対象外であるが、子育て支援の重要な拠点となっている幼児教育類似施設で、公的支援を受けていない市在住の幼児の利用がある場合、申請が必要)へ通っている児童の保護者を対象に、市が月額5000円を上限に補助するという幼児養育費補助金制度が創設された。小平市でも、公的負担または補助のない幼児施設へ通園している幼児や在宅児の保護者を対象にした幼児養育費補助金が創設された。任さんは両市の例も挙げて、「朝鮮学校およびそこに通う児童・生徒の保護者家庭がこのような地方自治体による新たな助成制度の対象になれば、今後新たな支援策を受けるうえでも有利になる。私たちが引き続き運動をしていくと道はどんどん開けていく」とのべた。
「声を上げ、行動したことが巻き返しにつながった」
続いて宋恵淑さんが、朝鮮幼稚園に子どもを通わせる保護者の立場から運動にどうかかわってきたのかについて報告した。
宋さんは、「朝鮮幼稚園をはじめとする各種学校認可の幼児施設が制度の対象になるには法改正が必要だが、現状で法改正はハードルが高い。当面は各党や議員への要請、署名集めなどで世論を喚起しつつ、除外された施設を対象に来年から実施される支援策の対象に朝鮮幼稚園などが含まれるよう働きかけることが重要だ」とのべた。また、保護者連絡会として、昨年から国会議員や地方自治体の議員を朝鮮幼稚園に招いて幼稚園の実態を見てもらう取り組みを重ねてきたことや、来年度から実施される支援策に向けた調査事業については、調査事業の公募期間(3月26日~5月22日)は新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が発令されるなど活動に大きな困難がともなったが、調査事業の実施先として手上げするよう自治体への働きかけた経験も話した。
宋さんによると、調査事業の公募の結果、朝鮮幼稚園の所在地である自治体は選定される一方、所在地ではないが幼稚園に通う児童が在住する近隣の自治体の中には調査事業に手上げしたが選定されなかった自治体もあったという。宋さんは「今回の調査事業は地方自治体に最終的な判断が任されたことで、自治体が国に忖度するケースもあったが、私たちが予想した以上に多くの自治体が手を挙げてくれた」とのべた。続けて、「各種学校の外国人幼稚園は幼保無償化の適用対象外となっているが、制度から完全には除外されず、今後の支援策を制度設計していく調査事業の対象施設の類型の一つに朝鮮幼稚園が選ばれるまでに巻き返すことができたのは、私たちがあきらめずに声を上げ、行動してきたからだ」と運動の成果を強調した。
「無関心は差別を容認すること」
「大阪では2016年から幼児教育の無償化が国に先駆けて始まっていた。しかし、高校無償化と同様、朝鮮学校が外されるのではないかという懸念は当時からあった。行政に問い合わせを重ねたが、そのたびにはぐらかされた。府や市への申し入れ、街頭宣伝やパレード、集めた署名を持って東京で関連府省への要請も行った。大阪選出の国会議員にも地道にアプローチしている」。大阪府オモニ連絡会代表の金亜紀さんは幼保無償化適用に向けたこの間の大坂での取り組みについて報告した。
「『無関心は差別を容認することだ』と何度も訴えてきた」という金さん。「声を上げることが大切。署名集めも世論に訴えていく行動だ。在日朝鮮人が多く住む大阪でも、在日朝鮮人についてよく知らない、朝鮮学校についてよく知らないという人はたくさんいる。そういう人びとに朝鮮学校のことを知ってもらうためには、当事者や関係者たちが声を上げていくしかない」。
金さんは、「空の上から1世、2世のハラボジ・ハルモニたちが私たちのたたかいを見ている。私たちもたたかう姿を子どもたちにしっかりと見せて、今度は私たちが子どもたちの未来を切り開いていかなくてはいけない」という大阪朝鮮中高級学校オモニ会会長の言葉を引用しながら、「幼保無償化の権利を獲得することから、子どもたちの学ぶ権利を含めて日本に住むすべての多種多様な人びとの権利が保障されるようがんばっていきたい」と決意をのべた。
「地方で地道な取り組みを」
今後の運動課題についても追加の発言があった。
任さんは、運動の過程で、この間、朝鮮学園や保護者に対して助成がなされていなかった自治体の中にも新たに補助金を支給する自治体が出てきていることに触れ、「3.29通知を機に地方自治体が朝鮮学校に対する補助金の支給を停止したり減額したりする動きが相次いだが、今回の動きはそれと逆行する流れ」だと指摘した。「私たちがかつて築き上げた既得権がどんどん侵害され、苦しい状況に置かれているが、運動を通じて、少しずつではあるがあらためて助成金が支給される流れができている。さまざまな国際条約で規定されているとおり、子どもの教育に関してはすべて平等に扱われるべきだ。そういう意味で、現在の状況は本来あるべき姿に戻っているということではないか」(任さん)。
任さんは具体的には、①100万人署名運動で残りの53万筆を集めて国会に届けること、②地方自体体に対するさらなる要請の2点を挙げた。
宋さんは、朝鮮幼稚園として国に求めていくのは、▼来年度からの支援策にすべての朝鮮幼稚園がネットワークとして認められ、すべての園が対象となること、▼国が地方自治体に対して、朝鮮幼稚園が地域や保護者のニーズにかなう幼児教育施設であると認めること、だとした。そして、さまざまな地域の取り組みの実例を挙げながら、「身近な自治体に対して私たちが働きかけられることはたくさんある」とした。
宋さんは最後に、「幼保無償化問題で完全には排除されず、巻き返せたのはこれまでのたたかいの蓄積があったから。しかし今はまだ巻き返しただけ。来年以降の支援の対象に朝鮮幼稚園が入るかどうかはわからない。巻き返しを超えて、日本政府に『倍返し』するためには今が踏ん張りどころ」だと当事者、運動関係者にさらなる奮起を呼びかけた。(文:李相英)