【イオ ニュース PICK UP】“差別と偏見むき出しの判決”―九州無償化裁判、2審でも不当判決
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朝鮮学校が高校無償化制度から除外されたことにより権利を侵害されたとして、九州朝鮮中高級学校の高級部生徒・卒業生らが2013年12月19日に起こした国家賠償請求訴訟(九州無償化裁判。原告は現在68人)。10月30日、福岡高等裁判所で控訴審判決が言い渡された。
結果は敗訴。
「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする」
矢尾渉裁判長は主文のみを読み上げ退廷。結果を知らされた福岡高裁前では、九州朝高生たちが次々と抗議した。
「日本政府の方々、裁判官の方々は私たちの何を知り、朝鮮学校の何を見たというのでしょうか。何も知らないで除外し続ける、これは明らかに不当な差別です」
「この許されない問題が生じ10年が経ちます。その間にどれほどの卒業生が悔し涙を流したことでしょう。希望ある子どもたちの未来がどれほど踏みにじられたでしょう」
「朝鮮人ということだけで、差別と偏見の目でしか見れない、理解しようとしない、そんな恥じ知らずな日本政府に、私たちから『当たり前』を奪う権利はありません」
また、朝鮮学校が高校無償化制度から除外された2010年当時、九州朝鮮中高級学校の高級部2年生だった卒業生は「10年後も、こうしてこの問題と闘っていることを誰が想像できたでしょう」と声を震わせた。現在は九州中高で教員をしているその卒業生は、「朝鮮人として生きたい、ウリハッキョで学びたいという生徒が一人でもいる限り、未来を守る闘いにすべてを注ぎます」と決意を新たにした。
県内だけでなく日本各地から駆けつけた同胞、日本市民らはシュプレヒコールで裁判所に怒りを伝えた。涙を流し、支え合いながら声を振り絞る人もいた。
同日14時半から福岡市科学館サイエンスホールにて記者会見が行われた。
「この裁判で負けたのは原告ではなくて裁判所。裁判所が権力におもねるだけの、非常にみっともない判決だった」。はじめに後藤富和弁護団長が発言した。「裁判官たちは、わずか15秒で法廷を出ていった。自分が出した判決が正しいと思うのであれば、きちんと理由を説明すべき。それもしなかった」。
続いて弁護団の安元隆治弁護士が判決内容について解説した。「いままで数々の不当判決が出てきたが、今回もまったく目新しいものがない、結論ありきの極めて不当な判決だ」。
国は、朝鮮学校が朝鮮総聯から「不当な支配」を受けている疑念があり、「適正な学校運営」がなされていないからということを理由に、朝鮮学校を高校無償化制度から除外した。弁護団はこの「不当な支配」という考え方自体が間違っていると何度も主張。しかし、福岡高裁は、どのようなことが「不当な支配」にあたるのか、具体的になにも検討しないまま、公安調査庁の資料などをもって「朝鮮学校が、その教育について朝鮮総聯から『不当な支配』を受けているとの合理的な疑念を抱かせるには十分なものであった」と結論づけた。
この点について、朴憲浩弁護士は「成り立ちから見ても、『不当な支配』というのは基本的に国家権力が教育に及ぼす影響に関して使われるもの。それを朝鮮学校と朝鮮総聯の関係に適用してしまった。しかも、具体的にどのような『支配』があるのかは分析もせずに、関係性があるというだけで他の学校とは対等な地位に置けないという判断をしている。これが差別ではなくてなんなのか」と憤った。
一方、もう一つの論点として「朝鮮学校を不指定にしたことに政治外交上の目的があったかどうか」も挙がっていた。弁護団は、時系列を示しながら、下村元文科大臣が明確な政治外交上の目的を持って朝鮮学校を不指定にしたとたびたび主張してきた。
今回の判決文には「下村大臣発言においては、確かに本件不指定処分に関する会見の場で、拉致問題の進展等にも言及がされている」と書かれているにも関わらず、その直後で「しかし、本件不指定処分に際しての通知に掲げられた処分理由には、拉致問題を始めとした政治的、外交的事項は一切言及がない」と続いている。
安元弁護士は呆れたような口調で、「各学校に送られてくる通知には政治外交的な理由は一切書かれていないから、と一部だけ切りとって判断している。形式的な部分だけを捉えており、本質に迫ろうという気がまったく見られない判決だ」とのべ、一因には「裁判所が現地を見なかった、現実の朝鮮学校を知ろうとしなかった」からだと続けた。「いま社会に蔓延している在日朝鮮人への差別、偏見の意識をむき出しにしたまま書かれた判決なのかなと感じた」。
白充弁護士は、判決を見て3つのことを感じたという。「1つ目は、日本社会に蔓延する『北朝鮮悪魔論』。裁判官もここから抜け出そうとしなかった。2つ目は、『不当な支配』というワードが、“国家権力による不当な支配を許すワード”になってしまった。もともとは国家権力が教育をコントロールしないようにと設けられたものなのに、逆転している。『不当な支配』という言葉を使って、まさに政府が教育や学問という分野に積極的に介入していっている。そして3つ目は、そういうことにブレーキをかけるのが司法なのに、ブレーキがかかっていない。この3点が非常に顕著になった」。
金敏寛弁護士は、「福岡高裁も国に忖度した」と発言。「高校無償化法が施行された2010年から朝鮮学校が不指定になった2013年までの客観的事実を見れば、下村元文科大臣が政治外交上の目的でハ号を削除したのは明らか。なぜハ号を削除したのか、この点について裁判官は向き合って下さいと控訴審の結審でも意見陳述したが、規程13条を先に持ち出され、結局判断から逃げられた」。
会見の最後に、後藤弁護団長が「この判決がまともではないと裁判官も知っている。では、なぜ堂々とこんな判決を出すのか。それは、いくら不当な判決を書いても日本社会で受け入れられると裁判官が思っているから。朝鮮人だったら大丈夫、在日コリアンだったらいくら言っても日本社会は怒らない、逆に正しい判決を書いたら裁判官が社会からバッシングを受けてしまう。そういう社会を私たち日本人が作ってしまった。この社会が子どもたちへの差別を許さない、やさしい社会であれば、裁判長も朝鮮学校に行ってみようかとなったはず。これは、私たち日本人の在り方が問われている裁判です」と締めくくった。
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報告集会のようすは本日午後にアップする。(文・写真:黄理愛)