【イオ ニュース PICK UP】九州無償化裁判、弁護団が最高裁へ上告(声明全文)
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九州無償化裁判の控訴審で、10月30日に福岡高等裁判所が下した判決を受けて、無償化弁護団は11月11日、福岡高裁に対し上告状 兼 上告受理申立書を提出した。弁護団は同日に発表した声明で、今回の判決が結論ありきで書かれたものだとしながら、正しい判断と制度の即時適用を強く求めた。
以下、声明の全文を紹介する。
声 明
1 はじめに
2020年10月30日、福岡高等裁判所第1民事部(裁判長矢尾渉裁判官、佐藤拓海裁判官、伊賀和幸裁判官)は、九州朝高生就学支援金差別国家賠償請求事件 (控訴人68名)の控訴審において、一審判決を踏襲し、国の主張を全面的に採用した、極めて不当な判決を言い渡した。人権救済の最後の砦である裁判所が、少数者の人権を保護する観点に立つのではなく、あろうことか行政による権利侵害を是認肯定し、追随する判決を行ったことは、司法の役割を放棄したものにほかならない。
本判決には多数の問題があるが、その中でも弁護団が強く懸念する点につき指摘する。
2 結論ありきの判決であること
今回の福岡高裁の本判決(以下、「本判決」という。)は、一言でいえば、結論ありきの判決である。福岡高裁の本判決が不当な点であることの一つ目は、当事者の主張を全く聴かず、控訴人らの控訴を棄却するという結論を決めたうえで、棄却するための理由を並べたと評価せざるを得ないことである。
高校無償化制度が始まった2010年から、九州朝鮮高校を含む全国10校の朝鮮高校に対する不指定処分がなされた2013年2月20日までの経過において、下村文科大臣の言動からすれば、朝鮮高校を不指定処分とするために、政治外交上の理由から、その根拠規定である「規則ハ号」を削除したことは明らかである。
そのため、控訴人らは、原審から控訴審に至る過程において、本件不指定処分の真の理由は「規則ハ号」削除であって、「本件規程13条不適合性」は後付けの理由にすぎず、何故に下村文科大臣が「規則ハ号」を削除するに至ったのか、その理由を明らかにすべきであると主張し続けてきた。
本件不指定処分の理由の記載をみても、「規則ハ号削除」が先であり、「本件規程13条不適合性」は後である。不指定処分の理由の順番からしても、裁判所は、まず、「規則ハ号削除」について検討しなければならかったといえる。
しかしながら、福岡高裁が整理した争点の一つ目は、「本件規程13条不適合性」 を理由とする下村文科大臣の判断が、無償化法に違反するか否かであった。控訴人らの主張や不指定処分の理由の順番からしても、「規則ハ号削除」を争点の一つ目として判断すべきであったところ、福岡高裁が「本件規程13条不適合性」を争点の頭に整理したことこそ、控訴人らの控訴を棄却するという結論が先にあり、この結論を導くためであったといわざるを得ない。
「規則ハ号削除」について検討すれば、下村文科大臣が政治外交上の理由から、規則ハ号を削除するとともに不指定処分をしたことが明らかとなり、控訴人らの控訴を棄却することができず、原判決を取り消さねばならないことを知っていたからこそ、福岡高裁は、本判決のように争点整理したのである。
3 不指定処分の理由に関する論理的関係について判断していないこと
また、本件不指定処分の理由については、原審段階から、「規則ハ号の削除」、「本件規定13条への不適合性」という、2つの理由その論理的関係が争点となっており、控訴審においても、控訴人らはかかる論理的関係についても主張を重ねてきた。
本件規程は、規則ハ号に基づく指定のための基準であり、規則ハ号が存在することが当然の前提となる。九州朝鮮高校を運営する学校法人福岡朝鮮学園が、本件不指定処分通知を受領したときには、既に規則ハ号は削除されて存在しなかったのであるから、「本件規程13条不適合性」を不指定処分の理由に用いることはできないはずというものである。本件不指定処分の2つの理由は、同時には両立しないのである。
この論理的関係について、原審は、その結論の当否は別として、一応判断が示されたにもかかわらず、福岡高裁における本判決中には、不指定処分の理由に関する論理的関係について何らの判断も示されておらず、この点についても、福岡高裁の本判決は極めて不当であると指摘せざるを得ない。
4 朝鮮高校について「不当な支配」を受けているとの合理的疑念があると判断したこと
九州朝鮮高校を含む全国の朝鮮高校をはじめとする朝鮮学校が全国各地に設立されてから、優に半世紀を超える。この間、朝鮮学校が設立されて今もなお存在するのは、朝鮮民主主義人民共和国や朝鮮総聯との「協力関係」があるからであり、決して「不当な支配」を受けているからではない。
控訴人らは、朝鮮学校の歴史的経緯について主張するとともに、九州朝鮮高校が 「不当な支配」を受けているか否かについて判断するために検証申立等を行い、裁判官に対して、九州朝鮮高校を訪れてほしいと訴え続けてきた。
しかしながら、福岡高裁の裁判官は控訴人らの訴えを受け入れず、九州朝鮮高校やそこで学ぶ生徒の姿を見ないまま、「不当な支配」を受けているとの合理的疑念があると結論づけた。
当事者である九州朝鮮高校自身が、「不当な支配」を受けておらず、何ら自主性を歪められていないとしているにもかかわらず、福岡高裁は、九州朝鮮高校が「不当な支配」を受けているとしており、福岡高裁の本判決は不当であるといわざるを得ない。
また、「不当な支配」に関する福岡高裁の判断が極めて不当なのは、「不当な支配」の内容を定義せず、具体的にどのような事情をもって、どのような判断枠組みで「不当な支配」の合理的疑念があると判断したのか、何ら示されていないことである。
本来、「不当な支配」について定める教育基本法16条の趣旨は、明治憲法下での教育が、強力な国家的統制の下におかれたことが、苛烈な軍国主義と戦争につながったことへの反省から、基本的には国家権力が教育に対して及ぼす支配を規制しようとしたところにある。国は、この「不当な支配」を、朝鮮学校と朝鮮総連との関係にすげ替えて適用し本件不指定処分に及んだものであり、そのことこそが、被控訴人である国による九州朝鮮高校に対する「不当な支配」であると、控訴人らは主張するとともに、これを基礎づける学者の意見書も書証として提出していた。
しかしながら、福岡高裁は、学者意見書についても全く検討することなく、朝鮮学校が朝鮮総聯と関係を有しているということ自体をもって、「不当な支配」関係の合理的疑念が存在していると結論づけた。極めて粗雑で、不当な判断であるとと もに、今後、「不当な支配」概念を持って、国家権力が教育に介入していく途を開きかねず、断じて許しがたいものである。
5 拉致問題への言及と政治外交目的の認定を意図的に切り離したこと
福岡高等裁判所は、本件不指定処分前の下村文科大臣の発言中に拉致問題への言及があることを認定した。ところが、処分理由に拉致問題の記載がないことや、審査会の審査の過程で拉致問題が調査・議論の対象とされたことがないことを理由に政治外交目的でないと結論付けた。
そもそも裁判所は事実認定を誤っている。審査会の審査の過程では、たとえば朝鮮学校で使用している教科書に拉致問題の記載があることや、その中に日本政府の見解と異なるものがあることが指摘されるなど、拉致問題が審査の過程で調査・議論の対象とされていた。裁判所がこうした事実と異なる認定を行ったことは、裁判所が証拠を丹念に検討することなく、思い込みに基づいて結論ありきの判断を行ったことの証左である。
また、処分理由に直接的な記載がなくとも、間接事実から、政治外交目的や差別意図を推認することは可能であり、また、行政が差別意図を秘してもっともらしい理由で差別をする場合が多いことは経験則上明らかである。控訴人らが主張立証してきた事実を証拠から認定し、間接事実の積み上げによって政治外交目的や差別意図を推認することこそが、本件を審理するにあたって裁判所に求められた役割であった。
そうであるにもかかわらず、処分理由中に拉致問題に関する言及がないから、本件不指定処分が政治外交目的の処分ではないと結論付けることは、本判決のみならず、九州朝鮮高校やそこに通う生徒や関係者に対する権利侵害を軽視しているばかりか、行政に追随し、思考することを放棄したものにほかならない。
6 まとめ
裁判官は証拠から事実を認定し、これを評価する専門家である。高校無償化制度の開始から本件不指定処分に至るまでの事実からは、裁判官のような専門家でなくても、下村文科大臣が政治外交上の理由から、九州朝鮮高校による申請の根拠規定であった規則ハ号を削除し、不指定処分としたことは明白であり、このことこそが、本件無償化裁判の本質である。
福岡高裁は、本件訴訟の本質から目を背け、事実と証拠に基づいて判断するという裁判官の職責を放棄しただけでなく、国による差別を容認することで、人権救済の最後の砦としての役割も放棄したといえる。
裁判官が自身の役割や職責を放棄するのであれば、この国の人権や未来はない。
提訴から約7年が経過し、今もなお、九州朝鮮高校を含む朝鮮高校は高校無償化法の適用を受けていない。当弁護団は、国に対して、あらためて、全国の朝鮮高校に即時に高校無償化法を適用するよう求める。また、幼保無償化制度から、朝鮮幼稚園を含む外国人幼稚園が排除されていることについても、速やかに適用することを強く求める。
当弁護団は、国による朝鮮学校や外国人学校へのあらゆる差別政策を改めさせるため、全国の学校関係者および市民と連帯して、今後も奮闘する決意である。
そのため、当弁護団は、福岡高裁の不当判決に抗議するため、本日付で最高裁に上告することをここに宣言する。
以上
2020年11月11日
九州朝高生就学支援金差別国家賠償請求事件弁護団