【特集】「朝鮮」再定義 言葉の解放をめざして
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日本による植民地政策と戦後の未清算によって、「朝鮮」と名のつくものには長年をかけて“忌むべきもの、憎むべきもの、恥ずべきもの”というイメージが蓄積されていった。
日本社会にこびりついた偏見を剥がし、「朝鮮」という言葉を解放するためには、対抗の言葉を発信し続ける必要がある。特集では、「朝鮮」を再定義するためのさまざまな視点を集めた。
「朝鮮」をめぐる差別語
どのように生まれ、使われてきたか
筆者:内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)
「朝鮮」「鮮人」「北鮮」―“日本による統治”の意味合いが
「朝鮮」が、単に国や地域を指す言葉ではなく、ある特別な意味を持つようになったのは、1910年の「日韓併合」以降です。初代朝鮮総督・寺内正毅が「併合」にあたって発した言葉があります。
「本日公布ノ併合条約ニ依リ韓国ハ帝国ニ併合セラレ 自今朝鮮ト改称シテ帝国領土ノ一部トナリ…」
ここにあるように、もともとあった大韓帝国との名称を「朝鮮」に直し、日本の領土の一部だと規定したのです。支配者たちは「朝鮮」という言葉を、「大日本帝国の領土の一部」という意味をこめた言葉として使い始めました。
その年の10月頃にはすでに、新聞紙上で「鮮人」という言葉が見え始め、短期間のうちに一般化していったのです。…
“朝鮮”という言葉、
遠ざかる時、近づく時―
「朝鮮」を「韓国」に置き換えて話す同胞も少なくない。なぜそうするのか。口に出すことがはばかれる瞬間によぎる思いとは―。イオ編集部で募ったアンケートをもとに、「朝鮮」という言葉へのリアルな心情を紹介する。
アンケート方法
同アンケートは、Googleフォームを活用し、Facebook、TwitterなどのSNSや本誌ブログにて告知し募集した。
期間は、2020年11月18日~28日までの11日間で、216人から回答が集まった。質問事項は以下の通り。
1.年齢/2.在日何世ですか?/3.朝鮮学校に通いましたか?/4.自己紹介でどのように名乗ることが多いですか?/5.上記のように名乗るようになった理由やきっかけについてお書きください。/6.「朝鮮」という言葉にどのような印象を持っていますか?(複数選択可)/7.日常のなかで「朝鮮」という言葉を口に出すのがはばかれるなと思う場面はありますか?※上記で「ある」と答えた方は、どのような場面で思うのかをお書きください。/8.在日同胞同士の会話、日本人や韓国在住の同胞との会話で、「朝鮮人、朝鮮学校…」など「朝鮮」という言葉を使った際に起こった反応についてお書きください。※ポジティブなこと、ネガティブなこと、どちらでも構いません。
私たちを名乗る言葉は何か―
筆者:金哲秀(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター副センター長)
多様で複雑な呼称
10年前から「在日朝鮮人問題概論」の授業で「在日同胞の呼称について」というコマを設け、2、3年の学生に「相手にどのような呼称を使っていますか」という質問を行っている。「自分が何人か」と問われたときに、これほど多様で複雑な呼称を使っているのは、在日朝鮮人以外にいないのではないか、呼称が在日朝鮮人の根本的な問題と関わると感じたからだ。
答えは複数回答。回答の中で多いのは、①在日朝鮮人、②朝鮮人、③韓国人、④在日コリアン、⑤在日、⑥在日韓国・朝鮮人という順だ。学生なので、アルバイトのときに差別されるのではないか、怖い、説明する煩わしさから逃れたいという心理も見え隠れする。「望ましい呼称は」と質問すると、ほとんどの学生が在日朝鮮人、朝鮮人と回答する。
在日朝鮮人の呼称を考えたとき、「朝鮮人」から始まり、さまざまな呼称が生まれてきた歴史を見つめるべきだ。…
マジョリティの “良心”が暴力になるとき
「北朝鮮」という思考停止をもたらす言葉-
筆者:山本かほり(愛知県立大学教員)
10年の無償化支援の経験から
大学で排外主義を主たるテーマにして講義を組み立てるようになって何年かが経つ。在日朝鮮人のことや、朝鮮半島のこともかなり詳しく取りあげ、学生たちの「思い込み」や認識の「歪み」を少しでも「修正」したいと悪戦苦闘している。学生たちに染みついているのは、「北朝鮮」に対する定型的なイメージ、すなわち「核・ミサイル・拉致」などから「何をするのかわからない恐ろしい国」、しかし「荒唐無稽な国」というものだ。私に対抗しようしてくる学生もいる。いわく「国連が非難しているのだから北朝鮮は悪い」である。正直、徒労感もある。匿名の授業アンケートで「偏りすぎている」などと書かれて傷つくことも多い。そして、私ですら、これだけ傷つくのだから、当事者が受ける傷はどれほどのものだろうかと考える。…
アンニョンハセヨ、ご相談をどうぞ
在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)
日々、さまざまな差別や偏見にさらされている在日朝鮮人には、自身の悩みを打ち明けられる相談の窓口が切実に求められている。2020年10月、京都市内に開設された在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)のメンバーに開設までの経緯、寄せられた相談内容や今後の活動などについて寄稿してもらった。
筆者:丸一俊介(ZAC代表、精神健康福祉士)・朴希沙(臨床心理士・公認心理士)
「多様な個」を大切に
ZACは、臨床心理士や精神保健福祉士などメンタルヘルスに関わる専門職と地域でコミュニティ活動を行う方、在日コリアンと日本人がいっしょに企画し、開設したものです。
ZACの活動は二つあります。一つは、在日コリアンが安心して受けられるカウンセリング事業であり、もう一つは在日コリアンの生きやすい地域を作るコミュニティ活動事業です。その理念は次のようなものです。
1.多様な在日コリアン一人一人の悩みに寄り添う
2.質の高いカウンセリングの提供を目指す
3.秘密厳守・安全な場を保障
4.在日コリアンへの差別や偏見をほどく活動を行う
5.在日コリアンと関わる周囲の人々のサポートを行う
このようにZACは、在日コリアンの「多様な個」を大切にして心理支援を行うとともに、在日コリアンを取り巻く日本社会の差別や偏見の解消を通して在日コリアンのメンタルヘルスの向上を実現していこうとするものです。…
偏見をはがせば、こんなに自由だ
日本社会の中で「朝鮮」につけられた負のレッテルをはがし、自らの偏見を克服し、排外主義的な風潮に抗う人びとの姿を追った。
朝鮮文化とふれあう
2020年11月29日。京王線府中駅から徒歩約10分、東京・府中公園の入口には「朝鮮文化とふれあうつどい」(以下、「つどい」)と書かれた大きな横断幕が掲げられていた。
開会式では、毎年この行事を開催している「チマ・チョゴリ友の会」(以下、友の会)の松野哲二さん(71)があいさつに立ったあと、高野律雄・府中市長(59)も登壇した。
ステージには歌手の李政美さん、朴保さんのほか、朝鮮の民族打楽器サークル「テゴダン」が登場。朝鮮民謡、ロック、農楽のリズムが会場に響いた。「テゴダン」のメンバーからチャンゴを教えてもらっているという野本遥さん(35)は初めて行事に足を運んだ。
「互いの文化が表出し、顔を合わせる空間があるのは素敵なこと。『いろんなルーツを持つ人がこの街にいる』と感じられる場は大事だと思う」(野本さん)…
先輩の背中に学ぶ、ブレない芯
朝鮮のマイナスイメージをプラスに
日本社会に根強く残る差別や偏見に接し、在日朝鮮人の若者たちのアイデンティティは揺れ動く。プロパフォーマー・ちゃんへん.さんの生きざまに触れた東京朝鮮中高級学校の生徒たち、在日本朝鮮留学生同盟(留学同)の活動を通じて「朝鮮」を知った同胞大学生の言葉に耳を傾けた。
ちゃんへん.meets 東京中高生
2020年12月1日、プロパフォーマー・ちゃんへん.さんのジャグリングショーと講演会が東京朝鮮文化会館で行われた。得意のディアボロを使い、世界大会で10連覇しているという大技や、世界でも挑戦している人が2人しかいないという難易度の高い技を繰り出す。軽快なトークも相まって会場は大盛り上がりだった。
講演会では、京都の朝鮮人部落・ウトロで生まれ育った自身の生い立ち、日本学校でいじめを乗り越えた経験、パフォーマーを目指した時に立ちはだかった国籍の問題、在日1世が身を切りながら生きた祖国分断の悲しみと悔しさについて生々しい実体験を語った。…
以上は特集からの抜粋になります。全文ご覧になるには本誌をご覧ください。