2020年、私が選ぶ10冊
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前回の映画ベスト10に続く2020年回顧企画は、本のベスト10。独断と偏見で、今年出版された本の中から「これぞ」という10冊を選んでみた。
●『女帝 小池百合子』 石井妙子/文藝春秋
人間・小池百合子に迫った渾身の一冊。彼女の生い立ちから東京都知事就任、そして今年のコロナ禍における対応までの動きを追う。とにかく面白い。ページをめくる手が止まらない。小池氏本人に対するインタビュー取材なしに周辺取材を積み重ねて小池百合子という人間の特異性を浮き彫りにさせる手腕は見事の一言。
●『鉄路の果てに』 清水潔/マガジンハウス
著者が実家を整理している時に見つけた「だまされた」という父のメモ書き。日本から朝鮮半島を経て中国のハルビン、そしてシベリア鉄道でロシアのイルクーツクまで、メモに添えられていた地図を手掛かりに、75年前に父が経験した戦争の足跡をたどる。『女帝 小池百合子』と双璧をなす、2020年のノンフィクションの傑作。
●『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』 太田 啓子/大月書店
著者は男の子2人を育てる弁護士。親や周囲の大人が無自覚なままに「男らしさ」「女らしさ」の偏見を子どもに刷り込んでいないか?メディアの性表現、それでいいのか? 日常のやさしくわかりやすい言葉で書かれた「ジェンダー平等時代の子育て論」。子を持つ親にはもちろん、全国の朝鮮高校の図書室にも置くことをすすめたい。
●『ババヤガの夜』 王谷晶/河出書房新社
関東有数規模の暴力団の会長の一人娘の護衛を任された主人公の新道依子。強い女性たちが暴れ回る。ケンカ! 血みどろ! ド派手な暴力描写が最高。キレのいい文章に、キャラの立った登場人物たち。「狂熱のシスター・ハードボイルド」という帯文がぴったりくる、読んだらテンション爆上がりの作品。
●『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』 李龍徳/河出書房新社
刺激的なタイトルとともに、〈排外主義者たちの夢は叶った〉という衝撃的な書き出しにもドキッとする。新大久保戦争、在日狩り、ヘイトクライム―。ディストピア小説でありながら、青春小説でもある。唯一無二の読後感。
●『ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか』 田野大輔/大月書店
著者が勤務する大学で担当している講義科目「社会意識論」の中で毎年実施している特別授業「ファシズムの体験学習」。教師扮する指導者の下、独裁体制の支持者となった受講生が敬礼や行進、糾弾といった示威運動を実践することで、ファシズムの仕組みとその危険性を体験的に学んでいく。本書はこの授業のようすを紹介しつつ、ファシズムの仕組みを解説していくのだが、とにかくこの授業がユニークで面白い。
●『民衆暴力』 藤野裕子/中央公論新社
ここからは新書を4冊チョイス。
新政反対一揆、秩父事件、日比谷焼き打ち事件、関東大震災時の朝鮮人虐殺という日本近代における4つの事象を取り上げ、それぞれのケースで噴出した民衆暴力を、それぞれの時代背景や民衆の価値観から分析した本書は、権力への抵抗と被差別弱者への抑圧という民衆暴力が持つ両義性に注目しているのが特徴。暴力をめぐる一般的な通念に一石を投じる内容にもなっている。
●『暴君 シェイクスピアの政治学』 スティーブン・グリーンブラット(河合祥一郎訳)/岩波書店
シェイクスピア研究の大家である著者が、シェイクスピア作品を通して、「なぜ暴君は生まれるのか」「暴君とはどのような存在なのか」「私たちはどうして暴君を求めてしまうのか」といった問題に向き合う。私たちが生きる現代世界を反映したものとしか思えない分析結果に、古典作品を読む今日的意義を感じた。
●『証言 沖縄スパイ戦史』 三上智恵/集英社
新書なのに700ページ超。普通なら尻込みしそうな圧倒的なボリュームだが、決して読みにくくないのは中身の濃さゆえか。第2次大戦末期、民間人を含む20万人以上が犠牲になった沖縄戦の裏で、女性や子どもを含む住民を巻き込んで行われた「スパイ戦(非正規秘密戦)」の実態を徹底的に追及していく。
●『紫外線の社会史 見えざる光が照らす日本』 金凡性/岩波書店
紫外線の社会史? タイトルのユニークさにひかれて本書を手に取った。紫外線への着目は近代以降の日本の社会観、健康観、美容観、環境観の変遷を覗き見る上で有効であり、ジェンダーや人種に関する言説までをも浮き彫りにするという切り口が面白い。見えざるモノに対する期待や恐怖、不安は放射能や今般の新型ウイルス禍にも通じる。
なるべく、仕事以外の目的で読んだ本の中から選んでみた。読んだ本を逐一メモしていないので、ほかに見落としている本があるかもしれない。
今回のエントリで、2020年の私のブログはおしまい。
来年また会いましょう。
みなさん、よいお年を。(相)