vol.38 あり得べき世界への一歩を刻む
広告
差別が何を奪ったかを自分の口で伝えたかった――。
在日朝鮮人集住地域、川崎市・桜本の多文化交流施設「ふれあい館」などに、在日の虐殺や同館爆破を予告する文書が送られたヘイトクライム。被告は控訴を断念、2020年12月18日、懲役一年の実刑が確定した。特筆すべきは公判廷をヘイト指弾の場に塗り替えた同館館長、崔江以子さんの意見陳述だった。刑事法廷で在日の被害者が思いを述べたのは史上初めて。心身の負担も顧みず、法廷に立った理由とは何か、知りたかった。昨年11月、彼女に話を聴いた…。
葉書が見つかったのは1月4日。「館が閉まるのは年末年始だけ。親の仕事や貧困で『正月気分』とは程遠い数日を過ごす子にとって、4日は居場所が開く特別な日です。その寂しさを『心で抱きしめたい』と出勤した職員が、甘えて来た子どもに『これ(仕分け)が終わったら遊ぼうね』と言ってあの葉書を見つけたんです」。定規をあてたような異様な筆跡で書かれた虐殺予告の文字、子どもが目にする事態こそ避けられたが、最悪の仕事始めだった…。(続きは月刊イオ2021年2月号に掲載)
写真:中山和成
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。