「ステイホーム」からこぼれ落ちる人びと
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今年から月刊イオで新たに始まった著名人インタビュー企画「イオインタビュー」。私は3月号に掲載された柳美里さんの取材を担当した。
インタビュー記事の宿命だが、誌面にすべての内容を載せることは不可能だ。スペースの関係でカットせざるを得ない箇所が出てくる。今回のエントリでは、誌面に掲載できなかった内容のうち、現在のコロナ禍と関連してとくに重要だと感じた部分を紹介したい。
「ステイホーム」が叫ばれているが、ステイできるホームがない人もいる―。柳さんは「ステイホーム」という言葉が持つ暴力性について強調した。
全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した『JR上野駅公園口』で描かれたホームレスは文字通り家がない人びとだ。あるいは家があっても、そこにDV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待などが存在していたらどうなるのか。独居している高齢者のステイホームには孤独死の危険性もある。一律に「ステイホーム」と言ってしまってもいいのか―。
2019年10月の台風19号の時、テレビでは「命を守る行動をとってください」という呼びかけが繰り返された。その際、上野公園のホームレスが不忍池近くの小学校の避難所に行ったが、住民票が台東区にないという理由で避難所に入ることを拒否されている。一方、同じ台東区内の上野駅公園口近くの文化会館は外国人旅行者のために開放された。「『命を守る行動を』と呼びかけながら命の選別が行われた」と柳さんは指摘する。
ものごとを一括りにすれば、そこからこぼれ落ちる人びとが出てくる。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて東京、神奈川、千葉、埼玉の一都三県で発出されていた緊急事態宣言が今月21日をもって解除されることになった。この1年間、幾度となく聞いてきた「ステイホーム」。何の疑いもなく接し、使ってきた言葉だが、柳さんへのインタビューをきっかけに違和感を抱くようになった。
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