「新たな支援策」に朝鮮幼稚園も―約13万5000筆の署名集まる
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朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校幼稚園などが幼保無償化制度から除外されている中、それらを支援の枠組みに入れるよう求める署名運動が行われている。
3月24日、日本の全国ネットワーク組織である「フォーラム平和・人権・環境」(略称:平和フォーラム)が、この間に集めてきた13万4710筆の署名を、東京都内で「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」(以下、連絡会)の代表と保護者らに手渡した。
受け渡しの後、しばし懇談の場が持たれた。連絡会の宋恵淑代表(写真右)は、朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校幼稚園すべてが制度の対象となるよう求めてきた経緯について紹介。
2019年12月に「各種学校の外国人幼稚園への『幼児教育・保育無償化』適用を求める署名」を始めて約半年で50万を超える署名が集まったこと、昨年6月から8月には日本各地の関係者や保護者、市民団体がそれらを持って直接に関係府省へ赴き声を届けたこと、それが今回の「新たな支援策」につながったと思うこと―などを話した。
「もともと日本政府は、朝鮮学校をはじめとする外国人学校幼稚園は幼保無償化の対象外だといち早く閣議決定していた。そんな針の穴ほどの小さな穴をこじ開けて、ようやく一筋の光が差してきたのが今の状況だと思う」と宋さん。
宋さんは、平和フォーラムを含める日本市民の協力があったから闘いを継続してくることができたとしながら、「今回の追加で始まった署名でも13万筆を超える大変な数を集めてくれた。全国の保護者から喜びの声が届いている」と感謝の言葉を伝えた。
平和フォーラムの共同代表を務める藤本泰成さんは、「本当は1000万、5000万と、もっと大きな数が集まれば社会は変わると思っている。なかなかそうはならないが、少しずつ少しずつ」とほほえんだ。
平和フォーラムは、19年12月から始まった1次署名にも積極的に賛同。今回は2度目の署名となるため、改めて「新たな支援策」に関する説明や署名の方針を書き、日本全国の参加団体に共有したという。「知ってもらえないと集められない」との意識からだ。
約13万5000筆の署名が集まった要因について藤本さんは、「平和フォーラムが主張しているのは、日本の中の差別をきちんと払拭しなければ、日朝・日韓関係は改善しないということ。日本国内で差別的な行為がたくさんあるのに、『お互い仲良くお付き合いしよう』という話にはならない。高校無償化の問題を含め、これまでずっと平和フォーラムとしていろいろなことをやってきた中で、そういう考え方が徐々に広がってきている気はする」とのべた。
東京純心大学客員教授の佐野通夫さんは、まず「幼保二元化など、日本の幼児教育政策全般が非常にたくさんの問題を抱えている。それなのにそのまま幼保無償化制度を始めたから、さらに矛盾が出てくる。その矛盾が一番あらわれたのが外国人幼稚園除外の問題」だと話した。
佐野さんは「新たな支援策」にも言及。「こちらは自治体が手を挙げないといけない。そうなると例えば同じ施設に通っていても、ここに住んでいる子どもはもらえて、こっちの子はダメというようなことが起きる。それはどう考えても制度的におかしいわけで…。本当にすべての子どもがのびのびと育つような、きちんと子どものことを考えた制度を作っていかなくてはならない。少なくとも『新たな支援策』では、すべての自治体が外国人の子どもたちもそこに住んでいるんだということを認識して活動してほしい」と強調した。
東京朝鮮第1初中級学校で幼稚園教員を務め、自身も保護者である韓永心さんは、4年前までは園児数が64人にまで増えたにもかかわらず、幼保無償化制度からの除外以降、半数に激減したと話した。
「2021学年度の入園児数は5人。保護者の方に、いま朝鮮幼稚園を選ぶ理由を聞くと、『在日コリアンとして育てるにはここしかないから』と話していた。私たちには未来ある子どもたちを育てる場所を守る責任がある。そんな中、今回の署名は希望を与えてくれたし、とても励まされた」。韓さんは、深く感謝を伝えた。
東京朝鮮第6初級学校の教員であり、同じく保護者の愼泰廣さんも平和フォーラムへの感謝をのべた。「自分が朝鮮高校生の時は大学受験資格における差別があり、署名も集めたし『なんでこの社会は変わらないんだ』と憤りも持った。教職についた後は、子どもたちを教えながらこのような社会を変えていこうと思ったが、自分が子どもを育てる番になってもまだ解決できていないことが悲しく、自分の力のなさも感じる。皆でともに歩いていける世界を作るために、一つずつ問題を解消していきたい。平和フォーラムの先生方にも協力をお願いしたい」と話した。
藤本さんは、次々に感謝を伝える保護者たちに「お礼を言わなくてもいい」と言葉をかけた。「僕たちは在日の人たちのためにとか、そういうことを越えて日本社会のためにやっている。だからみんなで一緒にやるのは当たり前だと思っているし、仲間たちにも常にそう言っていかないとダメだと考えている」。
「『平和運動』というとものすごく人が集まるが、『人権』というところへの人々の意識は薄く、なかなか関心を寄せてくれない。しかし、戦争は最大の人権侵害。小さな人権侵害を見過ごせば、積みあがって自分たちに跳ね返ってくる。差別とはそういうものだ。マイノリティの人権が常に確保されていない社会は、どこかで大きな間違いを犯す」と明言した。
平和フォーラムには、3月末まで引き続き参加団体からの協力署名が届く予定だという。
「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」も、引き続き署名への協力を広く呼びかけている。「幼児教育類似施設に対する『新たな支援策』にすべての外国人学校幼稚園も対象にするよう求める署名」にはネットからも賛同が可能だ。(理)