軽んじられる命、弱みに付け込む政策/入管法改正案の廃案求め連日抗議
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日本政府が今年2月に提出した「出入国管理及び難民認定法」(入管法)改正案の国会審議が続いている。「審議が尽くされている」として今週内の採決を目指す与党側と、名古屋入管に収容中だったスリランカ人女性が今年3月に死亡した問題の真相究明求める野党側との攻防は連日激化。野党側の徹底抗戦によって12日の法務委員会での採決は見送られたが、与党側は今国会での成立を目指しており、本日開かれる法務委員会を含め、いつ強行採決があるか予断を許さない状況が続いている。
国際人権諸条約に照らしても大きな問題がある日本の入管行政のあり方を改善するどころか、さらに悪化させる方向でまとめられている今回の改悪に対して、国会の外でも廃案を求める声が広がっている。
法案に反対する在日外国人当事者、支援団体メンバー、市民らは連日さまざまな方法で抗議アクションを行っている。NPO法人「移住者と連帯するネットワーク」(移住連)は、国会で法案の審議が始まった4月16日から入管法改悪反対の緊急アクションとして、衆議院法務委員会の開催日に合わせて国会前でシットイン(座り込み)を続けている。
12日に行われたシットインでは、在日外国人当事者らが収容施設での体験や家族を失った胸の痛みを吐露しながら、非人道的な入管行政に対して抗議した。
ナイジェリア出身で、現在「仮放免」中のエリザベスさんは、入管施設に2度収容された自身の経験を語った。「入管で体調を崩したとき、痛み止めが身体に合わないので外の病院に行きたいと言ったが、行かせてもらえなかった。私は何十年も日本に住み、税金も払っている。入管は、収容者が痛みを訴えても、死にそうになっても話を聞いてくれない。カメラのついている部屋に入れるだけ。(3月に)亡くなったスリランカ人女性への対応と同じことをしている」(エリザベスさん)。
また、入管施設で父を亡くしたジョージさん(スリランカ出身)や、自身が面会した収容者たちの置かれている状況についても話し、「もう殺さないでほしい。日本政府は難民に自由を与えて、助けて」と痛切に訴えた。
イラン出身で難民申請者のアフシンさんは、「生まれつきの独裁者はいない。ただ、その人に権力を与え、その人をチェックする機関がなければ、人間はいつの間にか独裁者になる」としながら、裁量権を持ち、これまで自由に権力を行使してきた入管施設への監視を強く求めた。
シットインには支援者や一般市民らも数多く参加し、法案を押し通そうとする与党政府に対し苦言を呈した。以下に発言の一部をまとめる。
- 安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)
中東地域、紛争地域などを取材するなかで、「日本は平和の国なんでしょ? 自分たちも日本まで行くことができたら保護してもらえるだろうか? 自分たち親がダメでも、将来のことを考えて、せめて子どもだけでも」という声をいただくことがあるが、切実な声をかけてくださる親御さんたちに、なんと言葉を返したらいいのかわからなくなる。
「法改正」というのは、人権がより守られる方向、あるいは、より生活が保てる方向に法律を変えていくものだと思う。しかし今回は、あらゆる面でそれとは真逆の方向に法案が捻じ曲げられようとしていると感じる。
与党側は、「十分に審議の時間をとったから」と主張しているが、時間さえ取れば中身がスカスカでもこの法律を通してしまっていいのか。なぜ、法案の中身を把握していないような政治家たちが、人の命をここまで大きく左右するような法案を簡単に扱ってしまうのか、はなはだ疑問だ。
- 鈴木雅子さん(弁護士)
3月31日、国連人権理事会で、今回の入管法改正法案が「国際人権法違反の懸念が強くある」と指摘された。これに対し日本政府は、「背景を説明すればわかってもらえる」と抗議した。
日本は、「家族が大事」と言いながら、ひとたび外国人が関われば、その人の家族がバラバラになろうと関係ない。「オンラインで会えばいい」「自分たちが悪いのだから帰ればいい」という声が出てくる。少しでも悪いことをしたら、とにかく放り返すことが最大の目標になってしまう。
入管施設では毎年のように人が亡くなっている。以前、ベトナムの方が亡くなった際の調査報告書で入管は、「本人を救命することが困難であった可能性も否定できない」と責任を回避した。
自分たちが命の責任を負うという気がなく、責任を回避するというところからしか始まらない。「運用で担保するから大丈夫」と上川陽子法務大臣は繰り返しているが、それが無理だということは誰にでもわかること。とにかくこの法案の審議を徹底的におかしいと主張し、廃案になることを願っている。
- 吉高叶さん(日本キリスト教協議会議長)
外国人は地域社会を一緒に作っている住民で、その人権は国際規範によって支えられ、守られなければならないという視点、在留資格というのは資格ではなく権利でなくてはならないという視点によって日本の外国人政策を抜本的に変えていかなくてはならないと思う。
日本の外国人政策は基本的に外国人の弱みに付け込む政策。単なる労働力、それが終われば厄介者、さらに、犯罪者として叩き出そうとしていく。このような思想がそもそも間違っている。人間の命が、この国、この社会でどれほど重いのかを図るメルクマールが、今回の入管法改正案を通してしまうか、廃案に持ち込むことができるかにかかっている。
- 福井周さん(#FREE USHIKU、Voice Up Japan)
ともに生きることは本当に難しい。ともに生きるために線を引くことはあるかもしれない。しかし、排除するために線を引くということが本当に許せない。
他者と関わり、ともに生きることは難しいが、それを成し遂げたいと思っている人がここに集まっているし、民間のNPO、NGOなどの営みがあるのに、それを真っ向から無視して、この法案を押し通そうとしないでほしい。
入管法改正案をめぐっては、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管収容中に適切な医療を受けられずに死亡した件が問題となる中、法案の中身についての審議はほとんど行われていない。事件の真相解明に加えて、法案について十分な審議時間を設けるべきだと野党側は主張している。
5月12日の法務委員会では与党1名、野党6名が質問を行った。政府側からは上川陽子法務大臣のほか、参考人として出入国在留管理庁の佐々木聖子長官、松本裕次長が出席。
死亡した女性の収容中のビデオ映像を開示すべきという稲富修二議員(立憲民主党)に対して、上川大臣は「収容施設の保安上の観点、亡くなった女性の名誉・尊厳の観点からも取り扱いには慎重な配慮を要する」として開示を拒否した。
ウィシュマさんの死亡をめぐっては、死の2日前にウィシュマさんを診察した医師が仮放免を入管側にすすめていたことが明らかになったが、法務省が4月9日に公表した「中間報告」にはこのような事実が一切記載されなかった。
寺田学議員(立憲民主党)は、「およそ真相解明とはいえないような中間報告をもって採決を強行しようという感覚がわからない。何をそんなに急いでいるのか」と批判した。
藤野保史議員(日本共産党)も、「外国人労働者、技能実習生が食い物にされている構造にこそメスを入れる必要がある。移民政策をとらないという建前の裏で、政府は安価な労働力として外国人を受け入れてきた。入口における受け入れは拡大しているが、いざ何らかの理由で在留資格を失ったらさっさと帰国してもらう、という出口の部分にあたる退去強制手続きで入管にさらなる裁量と権限を与える。これがこの法案の本質だ」としながら、廃案を求めた。