五輪精神に反する「朝鮮学校差別」
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7月23日から開催された東京五輪をめぐり、人権感覚や歴史認識の欠如により、開会式関係者が直前に解任されたのは、声をあげた人たちがいたからで、その報を見ながら、「世界と日本の人権感覚の落差」とについて改めて考えた。
解任されたのは、私と同世代の人たちだったが、そもそも日本の公教育では日本がアジア諸国を植民地支配した事実を詳しく教えないので、日本やドイツが犯した戦争犯罪について、知識や認識が欠けているのは当然だと感じた。日本国内のイベントだったら、そもそも問題にすらならなかっただろう。
東京が、オリンピックを開催するに値する人権意識を備えているか、との問題提起は、以前からなされていた。
市民団体「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」(東京)は、日本政府が就学支援金から朝鮮高校を除外したり、東京都などの地方自治体が補助金を停止したことは「民族差別」だとして、2年前、国際オリンピック委員会(IOC)の委員95人全員に、東京五輪開幕までにこうした施策をやめるよう日本政府に働き掛けてほしいと求める電子メールを送付している(2019年6月11日までに送付)
全文はhttp://www.peace-forum.com/seimei/20190607ch.html
そもそも、日本政府による無償化からの朝鮮高校排除は、2010年4月に制度が始まる前から国連で厳しく批判されていた。
日本が批准した国連・人種差別撤廃委員会に基づき、日本政府が国連に提出した第2回報告書の審査後に出された総括所見(2010年3月)には、「(人種差別撤廃)委員会は、子どもの教育に差別的な効果をもたらす行為に懸念を表明する。[中略](高校無償化から)朝鮮学校を除外するべきことを提案している何人の政治家の態度」とあった。
また、国連・社会権規約委員会は、高校無償化制度から朝鮮高校を除外していることを「差別」だとし、就学支援金を支給するよう日本政府に勧告した(2013年5月17日)。しかし日本政府はこの勧告について、下村博文文部科学大臣(当時)が「民族差別にはあたらない」(5月24日、記者会見)と発言し、無視を決め込んだ。
高校無償化からの除外が続くなか、人種差別撤廃委員会が2014年9月26日に発表した「総括所見」には、「委員会は、締約国がその見解を修正し、適切に、朝鮮学校が高校授業料就学支援金制度の恩恵を受けることができること、および、地方自治体に対して、朝鮮学校への補助金の支給を再開し、または維持するよう促すことを締約国に奨励する。委員会は、締約国がユネスコの教育差別禁止条約(1960年)への加入を検討するよう勧告する」とあった(CERD/C/JPN/CO/7-9、パラグラフ19)。
前述の人種差別撤廃委員会において、日本政府代表は次のように説明していた(2014年8月21日)
「朝鮮学校は、朝鮮民主主義人民共和国政府と結びつくある組織と密接な関係にあり、教育内容、学校運営、財政にその影響が及んでおり、指定の基準を満たしていないため、不指定とした。もし、その学校運営が法の定める基準を満たせば、これらの学校は就学支援金を受給できる」(同委、議事概要)―。
一方、柴山昌彦文科大臣は2019年3月19日の参議院文教科学委員会で「朝鮮学校は学校運営の適否にかかわらず、指定されることはない」と答弁している。
このように日本政府の説明は、国連と国会とで食い違っていた。
日本政府の「二枚舌」を喝破した「朝鮮学校を支える全国ネットワーク」が2019年6月、国際オリンピック委員会(IOC)の委員全95名に要請文を送付し、朝鮮学校差別が「五輪精神に反する」と声をあげたのだ。この指摘は今も生き続けている。(瑛)