生まれて初めてダイエットに取り組んだ話
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職場の同僚の結婚式を間近に控えた5月のある日、クローゼットの中のスーツ類に久々に袖を通してみた。ただでさえスーツを着る機会は少ないが、昨年来の新型コロナウイルス・パンデミックで着用の機会はさらに減少している。
スーツを着るのはいつ以来だろうか。1年? いや、1年半は着ていない。久しぶりなので体に合うかどうか―。そんな思いで試着してみた。
実はかなり前から、手持ちの服がきつく感じることが多々あった。ジャストサイズで着ていた服のうちのいくつかはきつくなっていたり、着られないものも出てきていた。それでも、「自分にはダイエットは不要」「すぐに元の体形に戻るさ」と現実から目を背けながら、ストレッチがきいていたり腰回りがゆったりしているパンツを着用したり、「オーバーサイズが流行りだから」とワンサイズ上の服を着たりしてごまかしていた。
式で着用しようと考えていたスーツを着てみて、悪い予感は見事に的中。パンツはウエストがきつくてボタンが閉まらない! ジャケットは胸のあたりがパツパツでこれまた前ボタンが閉まらない!
太ってもすぐに元通りになる若さなどとうの昔に失った、太ったら太りっぱなしだ、40代半ばの現実を直視せよ—あらためてそんなシグナルが頭の中に鳴り響いた。
しかし、「ダイエットしないといけないなぁ」と思いつつも、とりあえず目前に迫った結婚式には比較的ゆったりとした作りのフォーマルスーツで対応しよう、ダイエットはぼちぼち始めよう、そう考えていた。
その直後、式の延期が決まった。緊急事態宣言の期間延長によるアクシデント―。式を挙げる当人たちには申し訳ないが、これはまさしく天啓だと思った。今すぐダイエットに取り組み、あのスーツを着て2ヵ月後の式に出席するべし、という天からの声。
よし、やってやる。いや、やるしかない。
生まれて初めて、本格的なダイエットに取り組む決意が固まった。
一人だと決意は揺らぐが、今回は夫婦揃ってのチャレンジ。身近に苦労を共にしてくれる仲間がいることは心強い。
ダイエットを決意した時点での体重は73キログラム。きりのいい8キロ減の65キロを具体的な目標の数字に定めた。ダイエット方法は16時間断食と糖質制限を組み合わせた。夕食を午後8時までにとり終えて、翌日のお昼まで16時間、何も食べない。朝は酵素ドリンクを飲む。昼は食べたいものを食べてもOKだが、基本的には家から弁当を持っていく(小さいサイズ)。夕食もとるが、ごはん、麺類などは控え、主食をオートミールにする。もちろん、アルコール類はNG。間食もしない。食間に摂取していいのは水、お茶、コーヒー(無糖)のみ。以上のような食生活を月曜から金曜まで課し、土日は「チートデイ」とし、好きな時間に好きなだけ食べて、飲んでいいとルールを設定した。
心掛けたのは、決して無理をしないこと。短期集中型で極端な食事制限をすれば体重はもちろんガクッと落ちるだろうが、体を壊したら元も子もない。ストイックすぎる節制を課してストレスをためても心身ともによくないので、適度に欲望を解き放ちながらゆるくやっていこうと決めた。
そんなこんなで始まった、人生初のダイエット。その結末やいかに。
これまでと違う食生活も1週間ほどで慣れた。ダイエット開始2週間で体重計に乗ったところ、3キロ減。出だしは好調。その時、思った。「ダイエット、チョロいな」。2週間で3キロ減るなら、1ヵ月で6キロは無理でも5キロはいける。1ヵ月5キロ減なら2ヵ月で10キロ減? 掲げた目標なんて楽勝でクリアだな。
…そんなわけがない。病気以外の理由でそんな簡単に体重が落ちるなら誰も苦労はしない。
実際に、開始3週間目から体重減少のスピードは鈍化。はじめの2~3キロなんて簡単に落ちる、今からが本番ということだろう。
さらに、さまざまな障害や「誘惑」が私の行く手を阻もうと襲ってきた。
ダイエットを決意した直前にオーダーしていたホテルザッハーのザッハトルテが、ダイエット開始1ヵ月でいい感じに減量が進んでいるタイミングで自宅に届いた時はおのれの間の悪さを呪った。ザッハトルテの恐ろしいまでのカロリー数値を知っているなら、決してダイエット期間中に食べようなどとは思わない(結局、週末を利用して食べたが)。
そして、6月下旬からは1週間ほどの地方出張が入った。出張先で食事制限できるのか…。コロナ禍の最中とはいえ、会食の機会がまったくないというのは考えにくい。自分の中で節制の決意は揺るがなくても、誘いを断るわけにはいかない。コロナ禍で以前よりその機会は減ったとはいえ、今回の出張期間中も仕事相手と昼食をともにしたり、自宅に招かれて夕食をごちそうになることもあった。それはそれで仕事上必要な機会だと割り切って、そのぶん別のところで節制した。
ダイエットの成果が出始めると、週末の「チートデイ」でも欲望を全解放しなくなった。コロナ禍で外食の機会が激減したこと、育児で子どものイヤイヤ期への対応に手いっぱいで食でストレス解消する余裕すらないこともダイエットに有利に作用した。
5月18日から2ヵ月と1週間後、結婚式当日の7月24日に体重計に乗ると、体重はあの日から6.8キロ減っていた。2ヵ月ちょっとで7キロ弱の減量。当初掲げた目標には1キロあまり届かなかったが、まあ上出来だろう。
あらためてあのスーツを着てみた。2ヵ月前はウエストがきつくて履けなかったパンツが履ける! 胸のあたりがパツパツでボタンがしめられなかったジャケットが着られる! 「部分痩せ」はできないというが、さすがに7キロ近くも体重が落ちれば、きつかった服も着られるようになるものだ。服を着てこんなに感動したのはいつ以来だろうか。購入当時のようにストレスフリーで着用できる、とまではいかず、ところどころきつい部分はあったが、がんばってよかったとうれしくなった。
ダイエットを継続できたのは、自分の中で、欲望の赴くまま食べて飲むという刹那的な快楽に溺れるより、これまで着られた服が着られなくなるという恐怖のほうが勝った結果かもしれない。
この間、実感したこと。
・ダイエットに限った話ではないが、期限を切った具体的な目標を掲げると、やる気もアップする。
・同伴者がいれば長続きする。
・ダイエットとは単に「体重を減らす」「痩せる」ということにとどまらず、突き詰めれば、健康な生活をデザインするということ。バランスのいい食事を心がける、暴飲暴食しない、夜遅くに食べない、間食を控える、十分な睡眠をとる、ストレスをためない、運動する、などなど…。当たり前すぎて、ここであらためて言及するまでもないことだが、これを実生活で継続していくことは案外難しい。
・そして、健康の維持にはお金と手間と強い意志が必要だ。
「あの日、きつくて着られなかったスーツを着て同僚の結婚披露宴に出席する」という目標は果たした。しかし、次の目標がないと、欲望に負けてリバウンドしてしまうかもしれない。それはもったいない。とりあえず、年内にあと3~4キロ減らして、5年前の結婚当時の体重に戻そうかと考えている。(相)