思い出のイラストカット集
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月刊イオ9月号の特集は「イラストレーターの頭の中」。さまざまな趣旨の企画を設け、総勢7人の同胞イラストレーターを(専業・兼業問わず)紹介している。
それぞれの「きっかけ」を読むと、幼い頃に家族の影響を受けて絵を描くことが好きになった、という方が多かった。
私も物心ついた頃にオモニがアンパンマンのキャラクターをとても器用に描いてくれて、それを真似るうちに絵を描くことが好きになった。のちに聞くと、オモニは私を喜ばせるため何度もキャラクターを模写して、見なくても描けるように練習していたそうだ。
その後、何歳の時に買ってもらったかは定かではないが、気がついたら私の手元には分厚いイラストカット集があり、暇さえあればその中のイラストを模写していた。
いっとき夢中になっていたのは馬の絵。地元が競走馬の産地であるため、我が家にも馬のポスターやカレンダーがよく貼られていた。その影響もあったのだろう。何度も描くうちに私も、見ないまま馬の横顔が描けるようになった。当時どれだけ練習したのか、今でも横顔だけは20秒弱で描ける。
イラストカット集には他にも、さまざまな職業の人や著名人のイラスト、動物、果物や野菜、季節ごとのイベント、平仮名や英字の飾り文字といった大量のイラストが収録されていた。例えば干支の動物などは1pずつ与えられており絵のタッチもさまざまに表現されていたし、ニッチなイラストも多々あったと思う。
持ち歩き、何度もめくり、ボロボロになるまで使ったイラストカット集だったが、高校から実家を離れて以降は、その時々に打ち込むものができて(クラブ活動である吹奏楽と演劇、そして仕事)帰省しても手に取ることがなくなった。
しかし昨年、ふとその存在を思い出した。iPadを購入したことでにわかにイラスト熱が高まっていたのだろう。久しぶりにあの本のイラストを模写したい。さっそくオモニに電話すると「ちょっとどこにあるか分からない」との返事。
そりゃそうだ。ボロボロの状態で何年も省みることもなく、これまで存在も忘れていたのだから。この10数年の間に私物もある程度、整理されているだろう。
仕方なく手頃なイラストカット集を新たに探して買ってみたが、自分勝手ながら「これじゃない感」が否めなかった。
いや、まあでもイラストカット集は大体どれも同じような作りではあるのだが、もっと分厚くて絵柄も幅広くて…。要は幼少期をともに過ごした“あの”イラストカット集でなくてはいけないのだ。思い出に浸りながらお絵描きがしたかったのである。
いま考えると「おもちゃ箱」みたいな素敵な本だった。記憶している最後の姿は、カバーはなくなり、本自体もページの途中で裂けてしまっている。断片でもいいから、いつかまた手元に置きたいなと思っている。
コロナ禍のため今年夏の帰省も自粛するが、もしも年末か来年にでも実家に帰ることができたら頑張って探し出したい。(理)
※イオ編集部の夏季休暇に伴い、日刊イオは明日からお休みします。再開は8月17日(火)です。