vol.45 この倫理なき社会で フジ住宅裁判が問いかけるもの
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「裁判所に何か伝えたいことがあれば、ここで言ってください」。原告側尋問の最後で、金星姫弁護士からそう促された彼女は、裁判体に向けて声を振り絞った。
「本当に私……しんどいんです」。「自虐史観」を払拭する「社員教育」と称し、社内で嫌韓、嫌中などのヘイト文書を執拗に配られたうえ、会社あげての右派教科書採択運動への動員で精神的苦痛を受けたなどとして、東証一部上場の大手不動産会社「フジ住宅」のパート社員で在日三世の女性が、創業者会長と同社を相手に起こした裁判の控訴審第四回口頭弁論が7月14日、大阪高裁であった。
一審は被告に110万円の賠償を命じた。だが、それは更なる攻撃の始まりだった。提訴後も文書は止まず、会長らは自己正当化に終始したが、判決後は原告非難の度が増した。勝訴を伝えたヤフーニュースにぶら下がるヘイトコメントがA3のカラーコピーで配布され、挙句は自分たちの言動を指弾された敗訴判決を「実質勝訴」とまで歪曲、発信した。妄想である。名指しされなくとも彼女が原告なのは想像がつく。同僚の態度も明確に変わった…。(続きは月刊イオ2021年9月号に掲載)
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。