新連載 高校無償化裁判を振り返る vol.1
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国際人権規範欠いた “1勝14敗”
田中宏(一橋大学名誉教授)
画期的だった高校無償化法
2010年4月に施行された高校無償化法は、その対象を、1条校(正規校)に限らず、専修学校、外国人学校も対象とする画期的なものだった。日本の憲法26条には「すべて国民は、…ひとしく教育を受ける権利を有する(傍点田中、以下も)」とあるが、日本が加入する社会権国際規約13条は「締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める」とあり、後者に符合する制度となる。外国人学校は、(イ)大使館等が本国の高校に相当すると確認するもの、(ロ)国際的教育評価機関が認定したもの、(ハ)その他文部科学大臣が「高等学校の課程に類する課程」と指定するもの、とされ、朝鮮高校は(ハ)に該当するとされた。
(ハ)については、文科大臣に申請し、「(ハ)の規定に基づく指定に関する規程」による審査を経て指定される仕組みで、同年11月末が申請期限で、朝鮮高校はいずれも申請を済ませた。しかし、菅直人首相は、朝鮮による韓国・延坪島砲撃事件直後の11月24日、審査の「凍結」を指示、翌11年8月、「凍結」は解除されたが、決定を先送りするうちに、総選挙で自民党が勝利し、第2次安倍晋三政権に移行した。
安倍政権の初仕事が、
朝鮮高校除外
2012年12月成立の安倍内閣は、初仕事として朝鮮高校除外を断行。12月28日、下村博文文科大臣は、会見で「拉致問題に進展がないこと、朝鮮総聯と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること」をあげ、審査の根拠となる「同法施行規則(ハ)の削除」を表明。翌13年2月20日、「(ハ)の削除」及び「規程13条に適合すると認めるに至らなかった」を理由に、朝鮮高校10校に「不指定」を通知した。そして、大阪、名古屋、広島、福岡、東京で、「国家賠償又は処分取り消し」の請求を求めて、生徒・学園が提訴。問題の核心は、政治外交的見地から、朝鮮高校生の学ぶ権利を侵害することが許されるかである。
文科大臣の処分理由は2つだが、当初の大臣会見にあったのは「(ハ)の削除」だけで、それが朝鮮学校除外の「本命」である。何故なら、(ハ)の削除により、それを根拠とする「規程」も消滅するからである。しかし、(ハ)の削除は、高校無償化法が目指す高校段階の教育の機会均等を広く保障するとの法の目的に真っ向から反することになる。この点を、日本の司法が糾せるかどうかが問われたのが無償化裁判である…。(続きは2021年10月号に掲載)