「政府は速やかなヘイトクライム対策を」—外国人人権法連絡会代表ら法相と面会、要望書提出
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昨年、在日朝鮮人が集住する京都府宇治市のウトロ地区や在日朝鮮人関連施設で放火事件が起きるなど日本国内でヘイトクライム(差別的な動機による犯罪)が相次いでいる。このような状況を受けて、弁護士や研究者らでつくるNGO「外国人人権法連絡会」の田中宏、丹羽雅雄両共同代表、師岡康子事務局長とヘイトクライムの被害に遭ってきた在日朝鮮人3世の崔江以子さん(川崎市ふれあい館館長)が4月28日、法務省で古川禎久大臣に速やかなヘイトクライム対策を取るよう求める要望書を提出した。公明党の大口善徳衆議院議員、矢倉克夫参議院議員、國重徹衆議院議員が同席した。
要望書提出の冒頭、古川大臣は「人種や民族や国籍を理由にした不当な差別や偏見は、断じてあってはならない。お互いが違いを認め合って、助け合って生きるという共生社会が我々の目指すべき社会だ。今日はしっかりと意見交換をして、要望の内容を受けとめたい」とのべた。
要望書の提出後、面談がクローズドで行なわれた。出席者によると、師岡事務局長が「ヘイトクライム対策の提言」をはじめ連絡会で作成した資料を示しながら、対策の必要性、緊急性について説明した。提出された要望書と提言は日本社会のヘイトスピーチ、ヘイトクライムをめぐる現状に言及しながら、2016年にヘイトスピーチ解消法が制定されたがヘイトクライム対策は行われてこなかったと指摘。2020年に川崎ふれあい館に爆破予告などの脅迫文が届いたことや、昨年にはウトロ地区などへの放火が相次いだことを挙げ、「連続放火事件で死者がでなかったことは偶然にすぎず、このまま放置できない深刻な事態となっている」「今こそ政府はヘイトクライムを重大な社会問題と認識し、対策を始めるべきとき」だと早急な対応を促した。
そのうえで、以下の12項目で具体的な取り組みを行うよう求めた。
1.民族、国籍等の属性に対する差別的動機に基づく犯罪、すなわちヘイトクライムは、被害者に恐怖と苦痛をもたらし、社会に差別と暴力を蔓延させる世界共通の深刻な社会問題であり、日本でも根絶に向けた対策をとることを宣言すること。
2.政府内にヘイトクライム対策担当部署を設置すること。
3.専門的な審議会を設置し、ヘイトクライム対策に関する包括的な制度設計を行うこと。審議会のメンバーには人種差別撤廃問題等の専門家及びターゲットとなってきたマイノリティ(社会的少数者)をいれること。審議会は日本のヘイトクライム及びヘイトスピーチの実態並びにヘイトクライムに対する捜査機関及び裁判所のこれまでの対応、国際的な基準、他の国の先進事例等についての調査研究などを行うこと。
4.総理大臣、法務大臣等はヘイトクライムと思われる事件が起きた場合、速やかに現地を訪れ被害者から話を聞く、ヘイトクライムを許さないと公に発言する等、公の機関が積極的に具体的にヘイトクライム根絶のための行動をとること。
5.ヘイトクライムの直接の被害者及び同じ属性をもつマイノリティに対し、ヘイトクライムからの防衛、被害に対する金銭的補助、医療等の支援をすること。
6.ヘイトクライム加害者の再犯防止のため、差別の歴史等を学ぶ研修プログラムを作成し、受講させるよう制度化すること。
7.政府が国連に説明してきたように、現行法においても「人種主義的動機は、刑事裁判手続において、動機の悪質性として適切に立証し」「裁判所において量刑上考慮」することは可能であり、このような量刑上の考慮が実際に確実に行われるように、ガイドラインを作成する等体制を整備すること。
8.7が可能となるよう、警察官、検察官及び裁判官等の法執行官が、犯罪の背景にある人種主義的動機について認定できる適切な方法を含むヘイトクライムとヘイトスピーチに関する研修プログラムを定期的に実施すること。
9.ヘイトクライムの捜査、公訴の提起及び判決の状況に関する調査を毎年実施し、ヘイトクライムに関する統計を作成し公表すること。
10.インターネット上の通報窓口の設置等、ヘイトクライムの被害者及び目撃者が、容易に通報し、救済を求めることができる体制を整備すること。
11.ヘイトクライムの防止のため、特定の民族集団に対する暴力の煽動等の重大なヘイトスピーチについては法律で禁止し、特に悪質なものについては制裁を課すよう法整備を行うこと。また、ヘイトクライムの温床となっているインターネット上のヘイトスピーチを迅速に削除できるよう法整備を行うこと。
12.ヘイトクライムをはじめとする人種差別の根絶のために包括的な人種差別撤廃政策と法整備を行うこと。
続いて崔江以子さんが、自身の職場に送られてきた脅迫郵便物などの写真を見せながら、自らが被ってきた被害について話し、「差別を動機とする犯罪から守ってください。私たちを見殺しにしないでほしい」と訴えた。
一行は面談後に東京弁護士会館内で記者会見を行った。会見では面談時のようすについて報告があったほか、提言の内容についても説明があった。面談の場で古川大臣からは、「崔さんの話を聞いて、胸が張りさけるような思い」「ヘイトクライムは犯罪であり、絶対に許されない」といった発言があったという。連絡会側からは「政府、法務大臣として、明確にヘイトクライムは許さないと発言してもらいたい。それが被害者にとっても希望になる」という声が上がった。
師岡事務局長は、「国が動かないと状況は変わらない。今日の要望を、国際的な基準などに基づいた具体策を議論するきっかけ、スタートにしたい」とのべた。
会見で崔さんは、古川大臣との面会時に見せた脅迫郵便物などの写真をあらためて提示しながら、コメントを読み上げた。崔さんのコメントの全文は次の通り。
2016年の6月にヘイトスピーチ解消法ができた時、本当に嬉しかったです。
審議の過程で、参議院法務委員会の皆さんが、ヘイトデモの被害を受けた、川崎市桜本を現地視察にきてくださり、差別の被害を直接聴き、「決して許せない」と差別を批判し、何とかしなければと、法律を制定してくれました。
解消法ができて6年が経ちました。
まさか、法律ができた時よりも、差別によりつらい生活になるとは想像すらしていませんでした。
国がヘイトスピーチを許さないと法律で宣言してもなおネット上のヘイトスピーチはとまらず、ヘイトスピーチだけでなく、差別を動機とした犯罪、ヘイトクライムに苦しめられています。
2016年夏に私の写真にゴキブリとうじ虫が張られた、脅迫郵便が届きました。
翌年2017年には実物のゴキブリの死骸、首を切断されたゴキブリの死骸が届きました。
2020年のお正月には、虐殺予告の年賀状が届き、同月末には、私の勤める川崎市の施設に爆破予告がされました。
そして2021年3月コロナで多数の方々が亡くなり、社会全体が不安の中、朝鮮人死ねと14回記され、殺すという脅迫状とともに、コロナの菌が付着しているとされるお菓子の空袋がおくられてきました。
また、今年の2月にはTwitterで刃物の写真を投稿し、桜本で抗争したいという脅迫がありました。
毎日不安で自宅を出る際には、防刃ベストを付け、警棒、防犯ブザーを持ち歩いています。
差別を動機とする脅迫や犯罪は、エスカレートするばかりで、様々な自衛策や、警察によるパトロールを実施していただいていますが、次に何が起きるか、不安の渦の中にいます。
実際に京都宇治市の在日コリアンの集住地域や、愛知県の民族団体施設には、差別意識から火が放たれました。
次は私の住む場所だったかもしれません。次は私かもしれません。
どうか、助けてください。
差別を動機とする犯罪から守ってください。
私たちを見殺しにしないでください。
戦後日本の復興に貢献してきた在日一世の方々は、皆、高齢となり、老いの時を安寧に過ごすことを望まれていますが、次々に生じる差別犯罪に心を痛めつけられています。在日コリアンの子どもたちに、本名を名乗ろう。そして地域社会が本名を呼ぼうと、基本的人権を尊重し、共に生きる地域実践を大切にしてきましたが、こうした差別による脅迫や犯罪があり、そして放置されている社会では、こどもたちに、本名をなのろう、自分らしく生きようと、決して言えません。「殺されないように、ルーツを隠して生きたほうがいい。」こう言わなければならない社会なのですか。
どうか、たすけてください。
見殺しにしないでください。
私たちの願いは、誰かが、私が命を落とした後に「残念」とのコメントではなく、今、既に生じている差別を動機とする犯罪に、国が許さないと宣言をし、ヘイトクライムの被害から守られることです。
助けてください。
(相)