ウトロ放火事件初公判
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ヘイトクライム関連で注目の裁判が始まった。
報道によると、2021年8月、京都府宇治市の在日朝鮮人集住地区・ウトロで空き家など7棟が焼けた火事で非現住建造物等放火罪に問われた有本匠吾被告(22)の初公判が5月16日、京都地裁で行われた。有本被告は名古屋市にある在日本大韓民国民団(民団)の系列施設などに対する建造物損壊などの罪でも起訴されており、「どちらも事実で間違いない」と起訴内容をすべて認めた。
有本被告は昨年8月30日、ウトロ地区の空き家に火をつけ建物7棟を焼失させたほか、7月24日には名古屋市内の民団施設と隣接する学校に火を付け、壁面や人工芝の一部を焼失させている。ウトロ地区では、当時建設中だったウトロ平和祈念館に展示予定の立て看板など40点以上が全焼する被害が出ている。
検察側は冒頭陳述で、被告が犯行に及んだ動機について、「無職となった劣等感から鬱屈した気分になり、その憂さ晴らしをしようとした」と指摘。「以前から韓国人に対して悪感情を抱いていたことから名古屋市内の民団施設に放火したが、大きなニュースにはならなかったため物足りなさを感じた、ウトロ地区で建設が進んでいる平和祈念館に展示される資料を燃やせば社会から注目を浴びることができると考えた」などと犯行に至る経緯も説明した。
一連の事件がヘイトクライム(差別的な動機による犯罪)に当たるという指摘は以前からなされてきた。有本被告はなぜこのような事件を起こしたのか。公判前からさまざまなメディアが被告との接見や手紙のやり取りによる取材を通じて、犯行動機を語る本人の言葉を伝えている。
たとえば、
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/791501
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/utoro-arson-hatecrime?bfsource=relatedmanual
など。
リンク先の記事を読めば、一連の事件は在日朝鮮人に対する差別意識を基にしたヘイトクライムであることは明白だ。ウトロ地区が「不法占拠」され、住民たちが特別待遇を受けている、などなど。否定されて久しいネット上のデマを信じ、自らの境遇と比べて不平等感を覚えて在日朝鮮人に嫌悪感を持つようになった―。被告の情報の入手先としてヤフーニュースのコメント欄(通称「ヤフコメ」)があげられていることにもドキッとした。歪んだ被害者意識、事実誤認、身勝手で独善的な動機。被告の偏見を増幅させたのが、ヤフコメに代表されるインターネット上のヘイト、デマの巣窟だったという事実には暗澹たる気持ちにさせられる。
検察側は被告の犯行動機の背景として「韓国に対する悪感情」という言葉を用いたが、さらに踏み込んで「差別」という表現は使っていない。人種差別に基づく犯罪は量刑が重くなるのが世界的なスタンダードだ。被告の犯行がヘイトクライムであることを司法が認定し、量刑にいかに反映させるか―。今後の裁判のなりゆきが注目される。
第2回公判は6月7日に予定されている。(相)