vol.10 子どもは教師のかがみ
広告
筆者●呉明希先生(24、九州朝鮮初中高級学校)
ある日の休み時間、ひとりの女の子が「ソンセンニムの国語(朝鮮語)の教科書を貸してくださ~い」と言ってきた。まったく同じ教科書をもっているのに、わざわざ私の教科書で何をするのだろう。
「コマプスムニダ(ありがとうございます)」と笑顔で受け取ったかのじょを観察していると、「아、야、어、여…声を合わせて大きな声で読みましょう。せーのっ!」と唱えるのだ。それを聞いた他のみんなも「아、야、어、여 …」と続き、1年生による1年生だけの特別授業が始まった。「次は自分が先生役をする!」と急に始まった“ソンセンニムごっこ”。先生役は嬉しそうに黒板にウリマルを書いていく。まだまだ上手く書けず、誤字があるのはご愛嬌だ。
子どもは教師の姿をよく見ている。それを実感したある出来事があった。
とある朝、教室の隅に小さな紙くずが落ちていた。ある男の子が大きな声で「ゴミ発見!」といい、紙くずをゴミ箱に捨てた。
私が「えらいね、ありがとう」とお礼を伝えると、若干照れながらも「ソンセンニムもゴミを拾ってたでしょ?」とドヤ顔。「きれいな教室は気分がいいって言ってた!」とみんな口々に言いだし、ゴミ拾い競争が始まったのだ。
「ソンセンニム、気分はどう?」とキラキラした笑顔で聞いてくる子どもたち。いいに決まっている。良すぎるくらいだ。
子どもたちはありふれた日常の中で、どんなに小さな言葉や行動も逃さず、よく見て自分のものにしていく。
「子どもは教師のかがみ」と言う。私の何気ない言動ひとつで、子どもたちはこんなにも成長するのか、と背筋が伸びる思いだ。
いつ、どんなときも、子どもたちにとって美しいかがみであろうと強く思った。