私たちはなぜヘイトスピーチ・ヘイトクライム特集を組んだのか
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昨日完成したイオ11月号では「ヘイトを許さない社会へ」をテーマに特集を組んだ。
私たちがヘイトスピーチ、ヘイトクライム特集を組んだのは、現状に対する危機感に突き動かされたからだ。
2016年にヘイトスピーチ解消法が施行されてから6年。昨年には京都や愛知で在日朝鮮人集住地域や民族団体、韓国学校を狙った放火事件が発生した。今年に入っても、3月には大阪のコリア国際学園が放火された。京都ウトロ地区、名古屋の韓国学校などに対する放火事件では、犯行当時22歳の男性に今年8月、懲役4年の実刑判決が下された。いずれの事件も被告人の供述等から、在日朝鮮人への偏見・差別感情を基にその排除を狙ったヘイトクライムであることが明らかになっている。
このように、事態はヘイトスピーチからヘイトクライムへと変化・深刻化しているという現状認識に基づいて、この間に何が変わり、なにが変わっていないのか、「ヘイトを許さない社会」へ向けた課題は何なのかを探った。
本特集を編集する過程でも在日朝鮮人に対するヘイトスピーチ・ヘイトクライム事案は各地で相次いだ。東京朝鮮中高級学校(北区)の生徒が多く利用するJR赤羽駅で差別・脅迫落書きが見つかった。10月4日の朝鮮民主主義人民共和国によるミサイル発射実験と「Jアラート」発令後には、朝鮮学校やそこに通う児童・生徒たちへの嫌がらせや脅迫、暴行事件も起きている。
このような事態を受け、弁護士ら専門家でつくる「外国人人権法連絡会」のメンバー、朝鮮学校関係者、支援者らが昨日、法務省を訪ね同省人権擁護局の担当者と面会、具体的な被害を訴え、国や地方公共団体の声明の発出や啓発などの具体的行動を起こすよう要請した。
https://digital.asahi.com/articles/ASQBL655GQBLUTIL002.html
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/korean-school-hatecrime
朝鮮学校に通う子どもたちへの暴言、暴行、学校その他施設への脅迫などは今に始まったことではない。私が朝鮮学校に通っていた1980年代から90年代にかけても、朝鮮半島情勢が緊迫するたびに同様のことが頻発した。30年以上経った今も同じようなことが起こっているという現実に恐怖を感じると同時に、暗澹たる気持ちにさせられる。
当時はなかったインターネットが今はある。誤った情報や悪意、偏見・差別感情が容易に拡散される。ある意味では、事態がエスカレートするおそれは現在のほうが高いのではないか、と危惧している。
報道によると、要請を受けた法務省の担当者からは「差別を許さない気持ちは同じ。十分に受け止め、対応を検討します」との話があったという。
このような事件が起こったとき、国や地方自治体が「ヘイトスピーチ・ヘイトクライムを許さない」「再発防止につとめる」と声明を発することの重要性は言うまでもない。たとえば、首相や法務大臣などがウトロの放火事件現場を訪れて、被害者の話を聞き、ヘイトスピーチ・ヘイトクライム根絶への意志を表明(ガバメントスピーチ)するべきなのだが、朝鮮民主主義人民共和国との外交問題を口実に朝鮮高校を高校無償化・就学支援金制度から排除したり補助金の支給を凍結・減額したり、過去の加害の歴史を否定・改ざんしたりと、差別・排除を煽っている当事者たちが果たしてそのような意志表明をできるのか、実際にそのような課題に取り組むのか、甚だ疑わしいというのが正直な気持ちだ(国に対策を取るよう求めていくことの必要性を否定するものではないし、メディアとしても当然このような方向で報じていくが、個人的な思いとしてはどうしても疑念が先立ってしまう)。
さまざまな角度からヘイトスピーチ・ヘイトクライム問題を取り上げたイオ11月号をぜひ読んでもらいたい。
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