弁護士の力あつめ、学習権確立を/朝鮮学校を支援する全国弁護士フォーラム2022 東京
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「朝鮮学校を支援する全国弁護士フォーラム2022 東京」が10月22日東京朝鮮中高級学校(北区)で行われた。同フォーラムは、高校無償化裁判の過程で形成された弁護士たちのネットワークをより発展させ、裁判後も朝鮮学校に通う子どもたちの学習権を確立するため、法律家、学者、支援者たちが議論するという趣旨のもと開かれた。
教育権、多角的に問う
会場には、各地から54人の弁護士が足を運んだほか、同胞や日本市民、裁判関係者など約180人が参加。オンラインからも33人の弁護士が参加した。
フォーラム第1部ではシンポジウムが行われた。
最初に東京弁護団の金舜植弁護士が基調報告を行い、2013年から2021年まで行われてきた裁判闘争の争点や、無償化対象の不指定理由の矛盾点、日本政府の対応などを報告した。
続いて行われたパネルディスカッションには、大阪弁護団の丹羽雅雄弁護士、愛知弁護団の裵明玉弁護士、名古屋大学大学院の石井拓児教授、大阪産業大学の藤永壮教授が登壇。東京弁護団の李春煕弁護士がコーディネーターを務め、歴史的文脈や法学的視点から、民族教育を続けていくための議論を展開した。
裵明玉弁護士は、各地の朝高が高校無償化からの不指定処分を受ける前から提訴をしていた愛知訴訟について報告。
「植民地被支配人(植民地被害者)の子どもたちが民族性を回復・形成するという営みが、外交問題、治安問題に常に回収されていることが異常であり不合理だ」としたうえで、重要な権利が軽んじられる社会的、歴史的背景について、「植民地支配時の文化収奪、民族教育の開始以来続く弾圧政策、在日朝鮮人に対する制度的・社会的差別や『北朝鮮』フォビアが無償化除外を実現してしまった。外国人学校は祖国や民族団体との結びつき、バックアップがあるのは当然のことだ。裁判所は『教育が中立、不偏不党でなければいけない』と言うが、誰にとっての『不偏不党』なのか。植民地主義の押しつけではないか。裁判所が歴史的責任を自覚してほしい」とのべた。
また、「戦前の教育が国民を不幸に追いやったという反省から成り立った教育基本法が、いつから在日朝鮮人の教育への介入を許すことに利用されることになったのか―立法者は当時、在日朝鮮人の民族教育権については露ほども考えていなかったはずだ。教育基本法の解釈の中に、マイノリティの子たちの自由が確立されるよう取り組んでいかなくてはいけない」と、無償化裁判で浮かび上がった課題をあげた。
石井拓児教授は、戦後教育法学において、「民族教育権の自由」がどれほど議論されてきたかについて話した。
石井教授は、戦後日本の教育改革が、戦前の戦争国家における極めて画一的、統制的な教育システムに対する反省から出発したとしながら、「旧教育基本法10条では教育の自由を規定し、『教育における直接責任性』が言及された。当時、この文言は政府から『独立』して責任を負うという、『教育の独立性』に関する規定であった。
1970年代に起きた2つの教育裁判では、教育というのは他の行政委員会と異なり、独立してはいるものの、子どもたちを目の前に抱えており、独立しつつも、教師間における討議や、親を含む現場で教育を受けている主体と、その関係者からの批判によって制約を受けるべきであり、また、学校選択や私学教育の自由が保障されるべきだという画期的な判決が出されており、国家の介入はできないはずだ。無償化裁判では朝鮮学校への国家の介入がなされるという真逆のことが起こった」とのべた。
その他登壇者も、在日朝鮮人や朝鮮学校への弾圧・差別政策が、戦後、天皇の戦争責任を回避したことから始まっていること、その歴史性について日本政府の認識の無さなど、歴史的視点からの指摘が続き、世界的風潮としても、マジョリティの責任が問われていると語った。
弁護士にできることは―
第2部では、日本各地で進められてきた朝鮮学校支援の動きや、これから行われる取り組みについて報告がなされた。
同校卒業生の河潤美弁護士(30)は、これまで朝鮮学校と児童、生徒、学生らが受けたさまざまな法的・社会的差別をあげ「常に憎悪に晒され、差別を受けてきた生徒たちは、自己肯定感の損失やトラウマを抱えている。朝鮮学校に対する制度的差別を是正し、新たな立法措置をとるため、弁護士が提言していくことはできないだろうか。日常的な支援や朝鮮学校、生徒たちに対する社会的エンパワメントが重要だ。より支援の輪を広げていきたい」と呼びかけた。
愛知の「トトリの会」事務局の山本かほり・愛知県立大学教員も発言した。
「自分たちが何をすべきなのか問い続けたい。『北朝鮮と朝鮮学校、子どもたちは関係ない』『朝鮮学校を開かれた学校にする』ということを、支援の論理として使いがちだが、私たちは、その『関係のなさ』や『関係のあり方』『なぜ内向きのコミュニティを在日朝鮮人が作ってきたのか』を丁寧に議論していかないと、朝鮮学校の視野を狭めかねない。『違うことの権利』をどのように訴えていくのかを考えていきたい」。
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韓国の支援団体からもビデオメッセージが届いたほか、最後に、日本の弁護士からのあいさつもあった。
「外国人の人権救済委員会」の委員長を務める出井博文弁護士は、「日本の状況はとても厳しく、日本人の子どもの問題すらも放置されている状態だ。裁判すら起こせない日本の子どもたちもたくさんいる。朝鮮学校の教育権の問題とともに、日本の子どもたちにも目を向けていただきたい。互いに協力し取り組んだら、何かヒントが見つかるのでは」と思いを吐露し、「弁護士は、物事を動かさなくてはいけない」と語気を強めた。
日本各地から多くの弁護士と関係者が集まり、濃密な意見交換がなされた第1回目の弁護士フォーラム。第2回目は来年秋、愛知で開催される予定だ。(蘭)