自分を取り巻く世界の、広い方に目を向けて—金英琴さんトークイベント
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国内外のツアー企画やイベント運営といった国際文化交流事業を手がける株式会社sunwell lakadee lab代表の金英琴さんが4月8日、東京都内でトークイベントを主催した。
テーマは「過去現在未来への歩みの先に見える世界とは?」。
2022年から朝鮮商工新聞で始まった金さんの連載に多くの反響があったことを受け、エッセイには書ききれない思いやエピソードを読者や友人と共有しようとの目的で、金さん自らが企画した形だ。
東京朝鮮第3初級学校、東京朝鮮中高級学校を経て東京朝鮮歌舞団に入団した金さん。その後、飛び出た行動力とさまざまな人との縁があって、イルカ介在療法のボランティア、海外クルーズ船スタッフ、外資系金融機関職員、富裕層向けの旅行会社プランナーなど異色の経歴を積み上げてきた。
トークイベントでは、自身がどうして海外へ目を向けるようになったか、やりたいことの実現のため何をしてきたか、仕事の変遷過程や経緯、印象的だったエピソードについてたっぷりと話した。変化と驚きに満ちた金さんの経験に、参加者たちからはいくつもの質問がよせられた。
特に興味が集まったのは海外クルーズ船での仕事について。金さんは東京朝鮮歌舞団での経歴があったため、船内外でのアクティビティ運営やパーティの進行、ショーを毎日のようにこなしてきたという。
スタッフ、お客さん含めて、船にはいつも25~30ヵ国の人々が乗っていたが、当時「朝鮮籍」だった金さんはオンリー1。持参したチマチョゴリに加え、ネームプレートの「DPRK」という表示に関心を示す人がたくさんいたそうだ。ショーのトリで장고춤(チャンゴチュム=チャンゴの舞)を披露したことも。
30歳の区切りでクルーズ船の仕事を退職して日本へ戻ってきた後は、同級生の紹介で外資系の金融機関に職を得た。「マーケットデータって何?」というところから始まるも、トータルで6年半勤務した。
「たぶん私は縁と運で生きている」と話すが、ベースには“とりあえずできるところまでやる”という実直さと人には見せない努力があるように感じられた。
以降もさまざまな仕事に就いた金さん。履歴書には毎回、必ず「平壌音楽舞踊大学」という学歴も記している。朝鮮民主主義人民共和国で通信教育を受けたことを含め、学生時代から朝鮮舞踊に打ち込んで培ってきたアイデンティティが常に自身の根底にあると確信しているからだ。そして「朝鮮とか平壌とかそういった属性を理由に落とすのなら、そこまでの会社というだけ」と一蹴。
金さんは、「“免許”としてみるのであれば、日本社会の制度上、朝鮮学校は(学校教育法に定める「1条校」ではないため)認められていない部分もあるが、学歴として見れば、そして視野を日本ではなく世界に広げれば、そこをわざわざ突いてくる人はいない」と話した。
その上で、「自分自身がどう見るか。世界は360度あるので、目の前の狭い部分だけを見ると道が限られているように感じるけれど、その他に目を向ければあと350度もある。その部分を怖いものと考えるか、面白いものと考えるか。私もかつては『ウリハッキョ出身だから』『在日だから…』と後ろ向きに捉えることもあったが、逆に『“だから” 何なんだ?』とフラットに考えればそこから何かが変わる」と笑顔を見せた。
他にも豊富なエピソードでイベントを盛り上げた金さん。今後は、朝鮮舞踊に独自のメソッドを詰め込んだワークショップやトークイベントを国内外で事業として展開していくことを目標としている。(理)