小説「青春教師」
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家の本棚を整理していたら、懐かしい本が出てきた。
朝鮮大学校で教鞭を執っておられた権載玉先生の小説だ。
本書は私が『新しい世代』(現在の『セセデ』)にいた時に担当した小説で、1993年から1995年までおよそ2年間にわたって連載。その後、朝鮮青年社から書籍として出版された。
権先生が大学を卒業した後、1950年代後半に九州の朝鮮中高級学校に赴任した時の様子を小説としてつづったものだ。今回、改めて読んでみると、昔とずいぶん印象が違っていた。
本書は、在日朝鮮人の民族教育草創期の躍動する姿を実に見事に描いている。
当時の生徒や先生、保護者や学校を取り巻く同胞たちの姿がいきいきと描かれる。それは1959年12月の第1次帰国船出航のクライマックスに向かって大きな高揚をみせていく。
県外遠くまで家庭訪問に向かう先生たち。それをもてなす同胞たち。そして様々な悩みを抱え多くの事件を起こす生徒たち。
小説ではあるが、筆者自身が体験した「事実」がベースとなっているのがまた本書の貴重なところだ。
長年に渡り民族教育の教壇に立ってきた権先生は本書のあとがきで次のように書いている。
「これほどながい間教育にたずさわってきたのは、ひとつにはこの仕事が好きで好きでたまらなかったからだ。世の中にはさまざまな職業がある。だが、これほどやりがいのある仕事はないと思うようになった。…それ以外のものでは決して味わうことのできない、人間として最高の満足、幸福感とでもいおうか」
このブログで、(瑛)さん、(哲)さん、(愛)さんが、最近朝のニュース番組で都内の朝鮮学校の交流行事が放映されたことを取りあげ、番組の中でコメンテーターが朝鮮学校に対する偏見、無知などによって在日朝鮮人の民族教育を貶め、偏見をさらに広げる発言をしたことに憤り、批判している。
生涯を民族教育にささげた権先生の朝鮮学校、同胞社会に対する愛に溢れた作品。朝鮮学校に対する公的な攻撃、社会の偏見が広がっているいまこそ、ぜひ手に取ってもらいたい本だ。(k)