【イオニュースPICK UP】「群馬県だけの問題ではない」―群馬の森追悼碑撤去反対の声高まる
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県立公園「群馬の森」(高崎市)にたたずむ朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑の存続を訴え、市民らが撤去反対の声を高めている。
群馬の森朝鮮人追悼碑撤去に反対する市民の会(以下、「市民の会」)は7月2日、新宿アルタ前(東京)で碑の撤去反対を訴えるスタンディングデモを行い、市民ら80人が参加した。
2004年に建立された「記憶 反省そして友好」の追悼碑をめぐり、2012年に行われた碑前の追悼集会にて「強制連行」という発言があったと排外主義団体が県に抗議および街頭宣伝を繰り返した。碑を設置した市民団体が2013年に設置期間更新申請を行ったところ、県は翌14年7月、更新を不許可にした。「『記憶 反省そして友好』の追悼碑を守る会」(以下、「守る会」)は県の対応が不当だとし、処分の取り消しなどを求めて同年11月に民事訴訟を起こした。1審・高崎地裁の判決で「守る会」が勝訴したものの、2審の東京高裁で覆され、昨年6月に最高裁で上告が棄却され敗訴となった。
判決後、「守る会」と県側は数回にわたって話し合いの場をもったが議論は平行線をたどった。県は原状回復命令を「守る会」に通知するなどして、碑の撤去を求めている。
「守る会」は追悼碑の存続に向けて5月12日、山本一太知事宛に設置管理許可申請書を提出。しかし、6月13日に県から申請に対する不許可通知が届いたのを受け、「守る会」は県の対応が不当だとして再び裁判闘争を始める意向を示している。
それにともない市民の会は「守る会」とともに撤去反対の声を一層高めている。これまで市民の会は、群馬県に撤去の要請を撤回させるため、県庁前で2回、高崎駅前で1回、そして5月28日に新宿駅前で1回、抗議のスタンデングアクションを催しており、東京では2回目の開催となった。
当日のスタンデングでは、市民らによるリレートークが行われた。
主催者の1人でフリーライターの松本浩美さん(59)は、追悼碑の問題は「群馬県だけの問題ではない」とし、各地における歴史修正主義の台頭との連動性に言及。「歴史を否定することは、今、在日コリアンを差別することだ」と訴えかけた。
大学生の田内信善さん(20)は入管法改悪反対運動からヘイトスピーチ、在日コリアンの歴史を学ぶ機会があり参加した。田内さんは「今のヘイトスピーチの問題を考えるうえでも、戦前・戦後において在日コリアンの人たちを日本がどう扱ってきたのかが問われている」としながら、「植民地支配などの加害の歴史を否定する動きが行政の側においても進んでいる。歴史を記憶するためにも追悼碑の撤去には反対だ」とスピーチで語った。
中村利也さん(72)は指紋押捺拒否の運動からはじまり在日朝鮮人の権利を擁護する運動などに長年携わってきた。リレートークを終えて、中村さんは「指紋押捺と群馬の追悼碑撤去のことは直接的な関係はないが、差別の根本的な問題には植民地支配や強制連行が関わってくる。こんにち、群馬の朝鮮人追悼碑が右翼団体の攻撃によって問題になっているが、強制連行のことは各地で調査がなされて、事実が明らかになってきた。知られていない歴史、歪められている歴史があり、まだまだ各地で歴史を掘り起こす必要がある。追悼碑の問題も社会的により広めていかなければならない」と力を込めた。
主催者の1人である長谷川清さん(61)は「群馬に限らず、この国では各地で歴史否定の問題が露呈している。過去を反省し、追悼碑などの目に見えるものを後世に残すということは絶対に必要だ。学校ではこういったことを教えない。後世に伝えていくことが、今を生きる人の責任だと思う」と追悼碑の意義を主張した。
この日、「市民の会」が事前に告知したスタンディングの開催場所には排外主義団体の街宣車が立ち並んだうえ、ヘイトスピーチが響き渡り、大勢の人びとでにぎわう休日の新宿駅前は一時騒然となった。「市民の会」は場所を変更しスタンディングを行った。ヘイトスピーチ解消法(2016年施行)がある現在において、法的に見ても排外主義団体によるヘイト街宣は決して容認できるものではないだろう。
市民らは「ヘイトに屈して加害の歴史を否定してはならない」と反対の声を高めている。
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(文・写真:康哲誠)