【イオニュースPICK UP】「ハルモニたちのこと、もっと知って」 『アリランラプソディ』特別上映会、川崎各地で盛況
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神奈川県川崎市南部で厳しい環境のなか生きてきた在日コリアンのハルモニ(おばあさん)たちを記録した映画『アリラン ラプソディ~海を越えたハルモニたち~』の川崎特別上映会が8月15日、川崎市総合自治会館で行われた。
8月4日、川崎市労連会館から始まった特別上映会は各会場で満員を記録し、筆者が訪れた15日の第1部上映だけでも、約190人の人びとが参加した。21日に予定している最後の川崎特別上映は既に予約がいっぱいで、当日券での入場も難しいほどに盛況を博している。
劇場上映に先駆けて行われた特別上映会は、「一刻でも早くハルモニたちに見てほしい」という思いと、地元・川崎でハルモニたちとともに上映会を行うことで、市民らとの交流を深めていこうと「ハルモニといっしょ!『アリラン ラプソディ』川崎特別上映実行委員会」(以下、実行委員会)が主催した。
映画は、川崎南部に位置する桜本で生活する在日コリアンハルモニたちの歩んできた歴史と今、そしてハルモニたちが生きた時代背景が描かれる。植民地支配、戦争、分断と差別の時代を生きてきたハルモニたちは、居場所を求めて川崎の桜本地区に集まった。ハルモニたちが識字学級で読み書きを習んでいく過程は、次世代に何かを残そうとする取り組みでもあり、自らの尊厳を獲得していく過程でもある。
映画を製作した金聖雄監督(60)は、20年以上、ハルモニたちの撮影を続け、これまで川崎のハルモニたちをいきいきと描いた『花はんめ』(2004年)といった作品などを手がけてきた。
金監督が川崎のハルモニたちと出会い、『花はんめ』を制作した約10年後の2015年と2016年には桜本を排外主義者たちがヘイトデモで襲った。金監督は、「ハルモニたちがなぜここで暮らしているのか、『在日』することになったのかという視点が日本社会で抜け落ちている」と話す。そして、「ハルモニたちの歩んできた道がどのようなものだったのか、またその背景に何があったのかを今刻んでおかなければいけない」という思いから制作した。
金監督は「ハルモニたちが『私たちの映画』と言ってくれるこの映画を、一人でも多くの人に届けていくことが、平和に少しでもつながるのではないか」と語る。
上映後、ハルモニたちや監督が舞台挨拶を行った。
朝鮮半島が日本の植民地支配から解放された「祖国解放」の日である「8月15日に上映できたことは、大変意味深い」と語る朴根恵さん(72)は、「この映画は世界でたった一つしかないと思います。皆さん、今日いらしてくれて本当にありがとうございます」とあいさつした。
今年92歳を迎えた石日分さんは、「皆様のご声援によって、私たちももう少し長生きできると思います」とほほえんだ。
最後に、ハルモニたちが多文化交流施設「川崎市ふれあい館」の在日コリアン高齢者たちの学びの場・「ウリマダン」でいつも歌っているという「故郷の春(고향의 봄)」を披露し、会場はあたたかい空気に包まれた。
今回の上映会は、ハルモニたちの活動拠点である川崎南部ではなく、北部の会場で行われたが、盛況を博した。
川崎のタウンニュースで開催を知り、会場を訪れたという三宅由美子さん(58)は、「80歳まで自分の時間がなかったというハルモニの話を聞いて、衝撃的だった」と話す。三宅さんは、朝鮮語を学んでおり、その過程で朝鮮半島に38度線が引かれて分断された理由や朝鮮戦争のことを知ったという。「日本の植民地統治、朝鮮戦争を経験した方々の生の声を聞けたのが勉強になった。これから日本人として何をすべきかまだわからないが、まずは関心を持ち、知ることが大事だと思った」。
実行委員の三浦知人さん(社会福祉法人青丘社理事長、69)は、「ハルモニたちが川崎で積み重ねてきた経験を市民の財産として共有できるような取り組みを強化していく」としながら、「今日が『出会いの場』であるとしたら、これを機会に、今後とも川崎南部で暮らすハルモニたちの昨日・今日・明日を川崎の人びとと分かち合えるような場を作っていきたい」と展望を語った。
映画は、今年の冬から劇場で上映される。既に東京都新宿区のK’s cinema(ケイズシネマ)で上映が決まっており、これから主要都市にて上映を行っていく予定。また、金監督は、「川崎から世界へ」映画を広げていきたいと希望を語っている。(文・写真:康哲誠)
上映に関する情報は、HPまで。