【イオニュースPICK UP】知事は追悼文送付を、都は死者への冒涜を拒否する判断を―関東大震災朝鮮人虐殺100 年、犠牲者追悼式典実行委が声明
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関東大震災時の朝鮮人虐殺から100年を迎える今年、震災発生日の9月1日に東京都墨田区の横網町公園内にある朝鮮人虐殺犠牲者の追悼碑の前で式典を主催する「9 ・ 1 関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会」が8月17日、声明を発表した。実行委員会は、2017年から今年まで7年連続で式典への追悼文送付を取り止めている小池百合子都知事にあらためて追悼文の送付を求めるとともに、同日別時刻、同じ追悼碑前で差別・排外主義団体「そよ風」が開催を予定している集会について都が公園使用許可を出さないよう求めた。
横網町公園では毎年9月1日午前に日朝協会東京都連合会などが主催する追悼式典が、午後には総聯東京都本部などが主催する同胞追悼会が執り行われている。歴代の都知事は追悼式典に追悼文を送っていたが、小池知事は就任翌年の17年から、「犠牲となったすべての方々に哀悼の意を表しており、個々の行事への送付は控える」として追悼文を送らなくなった。これに対して実行委員会は毎年、「追悼文」送付の要請を続けており、震災100 年の今年も送付を求めたが、都は15日、「追悼文は送付しない」との返答を実行委員会に送った。
1日午後の同胞追悼会を主催する総聯東京都本部も8月9日、都に対し、小池都知事名義の追悼文を送付することなどを求めた。
https://chosonsinbo.com/jp/2023/08/10-155/
17日の声明で追悼式典実行委員会は、「多民族都市・東京の首長である都知事が、虐殺犠牲者に追悼を捧げ、二度と差別による暴力を許さないと死者の前に誓うことは、欠かせない営みであ」ると指摘。「災害で亡くなった人の死と、殺された人の死を『極度の混乱』という言葉で一つにくくって『追悼』することはできない」などとしながら、小池都知事の翻意と追悼文送付をあらためて求めた。
一方、9月1日16時半より朝鮮人犠牲者追悼碑の前で差別主義団体「そよ風」が集会を開く予定だ。「そよ風」は2017年以降、同追悼碑の撤去を求めて毎年9月1日に横網町公園内で集会を行い、関東大震災当時の流言を事実だと主張してきた。2020年には、このような言動に対して、東京都人権部がヘイトスピーチとして認定し、都に「適切な措置」を求める人権審査会の意見を示している。
実行委員会は、「そよ風」が開催を予定している集会は「死者を冒涜し、『慰霊』という大切な言葉を嘲笑する行為」だと非難。このような集会を許すことは「公園の設立趣旨を真っ向から否定するもの」だとしながら、都が追悼碑の前での集会開催に対して占有許可を出さないよう求めた。(文・李相英)
声明の全文は次の通り。
関東大震災100 年に当たり、小池都知事に虐殺犠牲者への追悼を求め、あわせて東京都に死者への冒涜を拒否する判断を求める声明
9 ・ 1 関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会
■小池都知事は送付否定を撤回し、追悼文 を送ってください
1923年9月1日に起きた関東大震災から、今年は100 年です。
この未曾有の震災は、都市火災の拡大によって東京・横浜を中心に10 万 5000 人の死者・行方不明者を出す惨事となりました。私たちは、この 災害の 死者を悼み、災害に強い安全・安心な東京をつくっていく決意を都民の皆さんと一緒に確かめたいと思います。
同時に、関東大震災の直後、もう一つの悲劇が起きたことを忘れてはならないと呼びかけます。震災直後、「朝鮮人が暴動を起こした」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言が拡がり、これを信じた民衆が多くの朝鮮人・中国人を虐殺しました。警察も流言を信じて拡散し、軍隊は自ら朝鮮人・中国人を射殺しました。
私たちは、災害を生き延びながら、その後に暴力によって命を奪われた朝鮮人、中国人、そして朝鮮人と目されて殺された日本の人々に、心からの哀悼の意を表します。
内閣府中央防災会議専門調査会報告「1923関東大震災報告【第2編】」は、「関東大震災時には、官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した…虐殺という表現が妥当する例が多かった」「犠牲者の正確な数は掴めないが、震災による死者数の1~数パーセント(千人~数千人)にあたり、人的損失の原因として軽視できない」「大規模災害時に発生した最悪の事態として、今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」としています。
同報告が今後の防災活動と関連する教訓として指摘しているのは、民族差別の克服と流言への警戒でした。今後、予想される大規模震災に備え、民族差別を戒め、災害に伴う差別的流言を許さないことは東京都庁と東京都民の責務です。そのためにも、多民族都市・東京の首長である都知事が、虐殺犠牲者に追悼を捧げ、二度と差別による暴力を許さないと死者の前に誓うことは、欠かせない営みであり、歴代の都知事が朝鮮人犠牲者追悼式典への「追悼文」送付として、それを行ってきました。
ところが小池百合子都知事は、2017 年以降、朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文送付を取り止めました。
これに対して、私たちは毎年、「追悼文」送付の要請を続けてきました。特に今年は震災100 年であることから、送付を切に求めました。ところが8月15日夕方、建設局からFAXが届きました。「追悼文送付につきましては、送付いたしません。東京都慰霊協会が執り行う大法要におきまして、都知事が大震災とその極度の混乱の中で、犠牲となられたすべての方々へ哀悼の意を表しております」という内容でした。
災害で亡くなった人の死と、殺された人の死を「極度の混乱」という言葉で一つにくくって「追悼」することはできません。小池都知事が本法要で朝鮮人・中国人の虐殺について明示的に言及し、哀悼の意を示したこともありません。
私たちは、震災100年である今年こそは、こうしたこれまでの姿勢を転換し、理不尽な死を迎えた死者たちに対して、都民の代表としてこうべを垂れてほしい、その表現として追悼文を送付してほしいと願ってきましたし、今も小池都知事の翻意と「追悼文」送付を求めています。
■東京都は死者への冒涜に占有許可を出さないでください
さらに、9月1日まで2週間を切った数日前、私たちの耳に驚くべきくべき知らせが入ってきました。2017年以降、横網町公園にある「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」の撤去を要求してきた差別主義団体「そよ風」が、こともあろうにそのその追悼碑の前で16時半から集会を開くというのです。
「そよ風」は、在特会(在日特権を許さない市民の会)と関係の深い団体として発足し、「韓国の皆さん、人間扱いしてごめんなさい」などといったプラカードを掲げるヘイトデモなどを行ってきた団体です。彼らのブログには「ビンボーくさい○○人顔」「土人同然だった朝鮮人」といった文言が頻出しています。
17年以降は、横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑の撤去を求めて毎年9月1日に横網町公園で集会を行い、朝鮮人が放火したといった関東大震災当時の流言を事実だと主張して「犯人は不逞朝鮮人」「自衛行動や制圧行動(虐殺のこと)は正当な行為」といった演説を、ときに巨大な拡声器で公園内に響かせたりしてきました。
2020年には、こうした言動に対して、東京都人権部がヘイトスピーチとして認定し、東京都に「適切な措置」を求める人権審査会の意見を示しました。
そうした団体が、今年9月1日16時半から、彼らが撤去を求める朝鮮人犠牲者追悼碑の前で「真実はここにある! 関東大震災朝鮮人犠牲者慰霊祭」を行うと発表したのです。これほどまでに死者を冒涜し、「慰霊」という大切な言葉を嘲笑する行為があるでしょうか。
横網町公園は、関東大震災の死者を悼む目的で1930年に完成した公園です。戦争を経て、今は震災の犠牲者と空襲の犠牲者を共に悼む「慰霊と伝承の公園」(同公園ホームページより)となりました。その「慰霊の公園」で、慰霊の日である9月1日に、追悼碑の前で死者を冒涜し嘲笑する集会を許すことは、公園の設立趣旨を真っ向から否定するものです。
先に引用した2020年のヘイト認定では、発言内容だけでなくその態様も問題にすべきだとの審査会の意見があり、それが認定にも反映しています。差別の犠牲となって殺された朝鮮人犠牲者を追悼する碑の前で、朝鮮人を差別し嘲笑するヘイトスピーチを行うことは甚だしい悪質な差別行為であり、死者を侮辱し、冒涜するものです。
幸い、東京都は8月15日時点で、この集会に対して占有許可を出していないことが分かっています。追悼碑の前での開催に対して占有許可を出さないことは可能です。集会の自由は憲法上、最も重要な権利ですが、この場合は他者の基本的人権を侵害するという意味で公共の福祉に反しており、その範囲を逸脱しているからです。
東京都立公園条例には、「都市公園の保全または都民の都市公園の使用に著しい支障が生じた場合」「公益上やむを得ない必要が生じた場合」は公園の使用を認めないことができるとあります。追悼碑の前で死者を冒涜する集会は、「慰霊の公園」としての機能を破壊し、著しく支障をきたすものです。
また、ヘイトスピーチを規制する目的でつくられた「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」の「公の施設の利用制限に関する基準」には、ヘイトスピーチが行われる蓋然性が高いなどの条件があれば利用制限ができると定められていられています。
どうか、震災から100年となる今年、「慰霊の公園」を踏みにじるこのような時と場所の占有を許さないでいただきたいと、切にお願いします。
関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑は、震災50年の1973年に当時の東京都議会全会派、つまり自由民主党、日本社会党、公明党、日本共産党、民社党の幹事長が建立実行委員会に参加するかたちで実現したものです。震災を生き延びた世代が、都民を代表して、悲劇を二度と繰り返さないという死者への誓いを示したものです。そうした先人の想いを踏みにじってほしくありません。罪もなく殺された死者たちへの冒涜、嘲笑を許す東京都になってほしくはありません。
小池都知事は「追悼文」を送付してください。
東京都は「慰霊の公園」を死者への冒涜に使わせないでください。
2023年8月17日
9・1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会