ムイト・プラゼール、はじめまして
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昨日、「ムイト・プラゼール」という映画を観た。東京・大塚の映画館で“日本に暮らす外国人”をテーマにした上映会が開催されており、そこへ足を運んだのだ。
ムイト・プラゼール(Muito Prazer)はポルトガル語で「はじめまして」の意味。あらすじは以下。
高校教師、金本は顧問である国際交流部の部員を連れて、茨城にある日系ブラジル人学校に訪問することを決める。一方、ブラジル人学校では日本人学校に転入したはずのアマンダがイジメにあい、戻ってきてしまう。度重なる日本人からの差別やイジメに耐えかねたブラジル人生徒たちは怒りを持って金本達を迎えることになる。(作品紹介ページより)
冒頭。ベッドから出られず、布団を頭の上まで引き上げる少女の姿が映し出される。カメラが移動して映し出すのは、真っ白なエナメルバッグに書きなぐられた「ブラジル帰れ」の文字。
場面は一転、二人の高校生がお喋りに興じている。「〇〇人は顔が濃いから胸毛も濃いよ」「〇〇人は肌がきれいだからいいな」「〇〇人は怒りっぽいってお母さんが言ってたよ」…聞きかじっただけの一方的な印象を人種に押し込め、屈託なく笑う。語り口がリアルで、すでに若干グロテスクだ。
そこに、もう一人の生徒を伴って教師が入ってくる。金本先生は「国際交流部」の次の活動として、茨城県にあるブラジル人学校を訪問すると話した。生徒たちは、在日ブラジル人の存在を知らなかった。
一方、ブラジル人学校。教室で生徒たちに「アマンダが戻ってきた」と話す教師。そこに入ってきたのは冒頭の少女だった。同じクラスの友人たちはその意味を知っている。日本の学校へ転校するも、いじめが原因で戻ってきてしまう友人を何人も目にしてきたからだ。
そんなところへ、日本の高校生との「国際交流」が告げられる。反発するブラジル人生徒たち。そうして当日を迎えるが…。
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上映会は9/29(金)まで開催されている。詳細はこちらのサイトにてチェックを。
同作の監督は朴正一さん。昨日はアフタートークも企画された。在日コリアンである朴さんが、どうしてブラジル人学校を題材に映画を撮ったのだろう。それが知りたくて行ってきたのだった。
会場では、朴さんがまず理由について語った。映像関係の仕事でさまざまな学校を回る機会があった朴さん。その一環でブラジル人学校へ赴いた際、在日ブラジル人の境遇と自身のバックグラウンドに近いものがあると感じ、仕事を越えて生徒たちと交流し始めたことが発端だという。
本作にもかつての生徒たちがメインで出演している。演技経験はないというが、日本人生徒と対峙した場面の態度や言葉には切実なものを感じた。演技とは思えないほど自然だったというより、それがかれ・かのじょたちがあらゆる形で直面してきた現実だったのだろう。
映画には、鄭順栄さんという方も出演している。鄭さん演じる金本先生(本名は李正美)が後半、自己を開示し感情を吐露することで物語は大きく動く。
鄭さんは東京朝高出身で、いろいろな仕事をしながら俳優業にもチャレンジしているそうだ。私の夫が同級生で、SNSでつながっていたことがこの映画を知った大もとのきっかけでもある。
同作は、本編30分+映画製作に携わった在日ブラジル人たち(現在はブラジルへ帰国している人も)へのインタビュー30分という短めの構成ながら、日本における差別意識の多層性をとても巧妙に描いていると感じた。
冒頭で人種に関するステレオタイプな会話を展開していた日本の高校生が、冷めきった教室でどんなことを言えたか。これまで数多く差別されてきた金本先生が、在日ブラジル人生徒たちとのファーストコンタクトで何を取りこぼしてしまったか。
東京で観られる機会は今のところ残り平日の昼間や夕方だけだが、興味がある方はぜひ会場へ。(理)