世界を見て自己を確立する
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朝鮮には「本は言葉なき師」(책은 말없는 스승)というたとえがある。朝鮮大学校に在学中、導かれるように手に取り、教えを乞うた『〈民族〉であることー第三世界としての在日朝鮮人』(高演義、1998年)。その「言葉なき師」のはずだった高演義さん(元朝鮮大学校教授)と取材で直接お会いすることができた。そして、朝大の頃に直接教え授けていただいた師である林裕哲ソンセンニム(先生)とも。
われわれを結びつけたのは「第三世界」。これをテーマに本郷ワーカーズスクール(HOWS)で2人が連続講座の講師を務めたことを一つのきっかけとし、イオ編集部で「第三世界と在日朝鮮人」を主なテーマに特別対談を企画した。(4ページにかけて次号11月号に掲載!)
朝大の頃は国際政治を専攻した筆者。大学時代に「地に足をつけ、目は世界を」と勉学に励んだはずが、ここ最近はほとんど足下しか見えていなかった。その視線を再度上げてくれたのがこれらの取材期間であり、自らの無知を改めて思い知らされたきっかけであり、まるで教室の中にいるかのようだった。改めて取材協力をしていただいた2人に心からお礼申し上げたい。
前置きが長くなってしまったが、実際に視線を少し上げてみよう。
現在、世界では反帝国主義、反植民地主義、自主を掲げる人民の動きが加速している。
フランスのマクロン大統領は9月24日、西アフリカのニジェールに駐留する自国軍を年内に撤収すると発表した。ニジェールでは西側諸国、特に旧植民地宗主国であるフランスの支配を終わらせようといわゆる軍事クーデターが起きて、既に「西側」寄りの政権が交代されていた。ニジェールは天然資源が豊富な国。例えばウランに関して、いわゆるフランスとニジェールの合弁企業が鉱山を所有しているが、フランス政府組織と企業がその85%で、残り15%がニジェール政府が所有している。これは一例に過ぎず、こういった新植民地主義が、西アフリカ地域でフランスの旧植民地圏で使われる通貨・CFAフランなどで依然根強く現れている。さらに軍事面では「対テロ」の名のもとに駐留し続けるフランス軍や米軍、そしてそれらの基地の存在がある。
継続する植民地主義に抗する西アフリカ諸国の人民たちはフランス、米国をはじめ西側諸国に対して怒りを露わにしている。2020年代以降、マリ、ブルキナファソでも同様の軍事クーデターが起きた。
さらに、そこではロシアの存在感も高まっている。そして第三世界の一員である朝鮮民主主義人民共和国の金正恩総書記が9月13日にロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った際にも「反帝自主」の理念が強調された。第三世界の国々とロシア、そして中国も加えた一つの大きなうねりが生まれている。
いわゆる「グローバルサウス」を自らの側に取り入れようと躍起になっている日本の状況では、現在のこのうねりが何なのか理解するのが難しいだろう。ましてや、「人権」「民主主義」という仮面をかぶり、「対『テロ』戦争」を繰り広げてきた国々、それらを積極的に支援してきた国々にとっては今の状況を「テロとの戦いからの後退」「民主主義の後退」などと受け取るだろう。
しかし、第三世界の人民からしたらどうだろうか。世界の約3分の2の人口を占めて、反帝自主を求め非同盟運動を推進してきた国々にとってはどうだろうか。今の状況は、抑えつけられてきた人々が真の解放を求める声、人間が人間として生きるための声がさらに高まりを見せている証だろう。「第三世界」というレンズを使って、世界で起きていることを見なければ、本質が見えない。
関東大震災から100年の今年に、再度突き付けられた日本での在日朝鮮人に対する差別と継続する植民地主義。植民地主義は大陸を越えて共鳴し合っている。私は「第三世界としての在日朝鮮人」を生きる身として、これらの動きに抗し、真の「解放」を求める人民と連帯しながら、在日朝鮮人の諸権利を自らが握るペンの力で確立していきたい。(哲)