対談「今こそ『第三世界』を語ろう」 我々はマイノリティではない
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東西冷戦時代、フランスの知識人・ソーヴィは、世界を米国を中心とした資本主義体制の「第一世界」、ソビエト連邦との協調で成り立つ社会主義体制の「第二世界」、そして世界人口の3分の2を占めていたそれ以外の地域を「第三世界」と分類した。第三世界という用語は、のちに旧植民地諸国が台頭していく過程で採用されて定着していった。第三世界は 「新興国・発展途上国」や、現在では「グローバル・サウス」とも言われている。
1955年のバンドン(インドネシア)で開かれたアジア・アフリカ会議で第三世界の団結が見られ、61年には第1回非同盟諸国首脳会議がベオグラード(ユーゴスラヴィア)で行われ、第三世界諸国による「非同盟運動」が本格的に始動した。東西冷戦という大国主導の陣営対立を拒絶した非同盟運動の根本原理は「反帝自主」。国際社会の民主化、新しい国際秩序づくりという目的を掲げる。非同盟運動は民族解放運動を支持、支援し70年代のギニアビサウをはじめ旧ポルトガル植民地の解放闘争、ベトナム戦争の勝利などにおいて大きな役割を果たしてきた。
また、国連を中心に影響力を及ぼしてきた第三世界は、「南北問題」の解消、軍縮問題をはじめ平和への働きかけを行ってきた。第三世界による働きかけで「国連貿易開発会議(UNICTAD)」が開催、そこで「77ヵ国グループ(G77)」(両64年)を形成し、74年には「新国際経済秩序(NIEO)」を総会で上程するも、債務危機により第三世界が打撃を受けてNIEOは挫折し、グローバリゼーションなどにより非同盟運動も退潮傾向にあった。しかし、2003年の米国のイラク侵攻を受けて行われた第13回非同盟諸国首脳会議を皮切りに再活性化。2019年に行われた第18回首脳会議では120の加盟国と、17のオブザーバー国・組織にゲストが参加した。
「見破る力」を身につける
司会:高演義さんと林裕哲さんは、今年6月から8月にかけて東京の本郷文化フォーラムホールで「第三世界」をテーマにした連続講座の講師を務めました。今回の対談はその延長線上で企画したのですが、いま改めて在日朝鮮人にとって「第三世界」を語る意義は大きいと感じます。まずは講演の感想からお聞かせください。
高演義(以下、高):あの時は熱がこもっていましたね。第三世界をテーマに日本人の前で講義できる時代がきたんだ。これまで第三世界主義者の私が「第三世界」と言っても振り向きもしなかった日本で、今ではしきりに「グローバル・サウス」なんて言われていますが。いわゆる「先進国」が完全に壁にぶつかった証明ではないでしょうか。第三世界が地道に積み上げてきた勝利です。世界の自主化がより前進したことを物語っている。要するに、現代世界をどう見るかという問題です。
林裕哲(以下、林):おっしゃる通り、世界で起きている戦争や緊張状態についてどの視点から語るかによって、見え方が違ってきます。特に、ウクライナの問題を考える際に、第三世界の視点というのは非常に重要だと思います。西側メディアのウクライナ戦争に対する報じ方と、イラク戦争(2003年)やイスラエルのパレスチナにおける虐殺に対する報じ方との間に温度差があり、その矛盾を第三世界諸国やそこに住む人々はよく分かっています。
司会:お二人はなぜ第三世界問題を研究しようと思ったのですか?
高:冷戦の時代を生きた私は、学生の頃からまるで世界が米国とソ連の2ヵ国で成り立っているような、東西の大国ばかりを扱う報道に首をかしげていました。そうではなく、東でも西でもない、自分自身だと信じる圧倒的多数の小さな国々から世界は構成されているのだという強い認識を持っていました。
林:先生は自らを「小国主義者」と称していましたね。
高:朝大では学生たちに正しい世界観を、世界についての見方を教え、授けたかった。あとは、外国語の重要性。日本では報じられない事実をヨーロッパの新聞はものすごく分析している。かれらはちゃんと本質を知っているんですよ。ウクライナ紛争だってそう。2014年のクリミア半島問題の時にヒトラー主義者・ゼレンスキーの背景を分析していた。〝cover〟という単語には「取材する、報道する」という意味のほかに「隠す」という意味があります。新聞を読む時も活字に現れていない行間を読みなさいっていうね。活字はカバーするために、真実を隠すためにある。朝鮮は「悪魔の国」で「悪の枢軸」である、これと反対のことを書いたら全部チェックされる。なぜか? 真実をカバーするためです。在日同胞は、民族教育が無権利状態に置かれ、自らが植民地奴隷状態が未だに続いている中で「見破る力」を身に付けなければいけません。
林:私が大学生の頃は、いわゆる2001年「9・11」後の米国によるアフガニスタン侵攻、イラク侵攻と続き、米国が中東、アラブ世界に戦争を仕掛けて破壊するということが公然と起きていました。そういった時代背景が世界観の形成に大きく影響しました。そのうえで、先生に第三世界という視点で国際情勢を見ていくことの重要さを学び、さらに、「第三世界と朝鮮」「第三世界と在日朝鮮人」「第三世界と私」という視点を常に忘れず、その中で物事を考えていくということを一番に受け取りました。
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