第三世界の過去から未来へ
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本誌月刊イオ11月号では高演義さん(フランス文学者・元朝鮮大学校外国語学部教授)と高さんに師事した林裕哲さん(朝大外国語学部准教授)による特別対談「今こそ『第三世界』を語ろう」を収録しました。本日のブログでは、お2人が講師を務め、対談を組むきっかけとなった連続講座「第三世界の過去、現在、そして未来」(主催=本郷文化フォーラムワーカーズスクール・HOWS)の要点を綴ります。(6月から8月末にかけて行われました)
以下は講演の要約です。
反帝自主を掲げ
高演義さんは第三世界の「過去」をテーマに、「非同盟思想とその歴史的活力(バンドン会議以降1960~80年代)」と題して講演を行いました。
高さんは、冷戦時代に世界が「ソ連陣営か米国陣営か」と「東西」で2分されて朝鮮やアラブ世界などの小さな国々は存在価値のないものとされてきたとし、我々が持つべき世界観は「東西」ではなく、地球の南半球と北半球における「南北」格差の問題だと強調しました。そして、「先に『先進国』として発展した国々についてくればいいんだという近代化論に対抗するのが第三世界論だ」と示しました。
国際連合の総会場では植民地支配から独立を遂げた第三世界の国々が次々と登場し、1974年には「新国際経済秩序」が樹立され、「北」に対する「南」の歴史的巻き返しが起きました。高さんは「『これでは資本主義経済が持たない』と、欧米大国が慌てふためいて翌年に立ち上げたのが、『先進国サミット(※現在のG7)』だ」と説明。「時代を変えて、東西冷戦を終わらせたのは第三世界であり、帝国主義に反対し自主的に運命を切り開いていくのが非同盟運動だ」と言葉に力を込めました。
さらに、1930年代に自らの運命は自らの自由意思で決めるという「主体(チュチェ)」について初めて語ったのが朝鮮の金日成主席で、ここにこれまで歴史の「対象」だった世界の中小国と大国の間における歴史の逆転、歴史の「主体」の転換の萌芽があったと話しました。その上で、非同盟運動の根本理念である反帝自主と朝鮮革命の理念との整合性についてのべました。
「人道」の仮面に抗して
林裕哲さんは「ソ連倒壊をへて『人道的』帝国主義による試練の1990年代から2010年代―帝国主義の現在と第三世界」と題し、講演を行いました。
「人道的」帝国主義とは、ジャン・ブリクモンによると、冷戦後の帝国主義による第三世界への植民地主義的な介入政策であり、その介入を「『民主主義』と『人権』の擁護」という名のもとに正当化するイデオロギーであると言います(※)。林さんは、それが国連憲章における「主権平等原則」に反するものだと説明。西側諸国の原理が国際法の脆弱化を招き、また反戦に向かうべき「左派リベラル」がそれを後押ししたと主張しました。
そのうえで、「人道的」介入の事例として、1999年のNATO(北大西洋条約機構)によるセルビア空爆、当時アフリカで大きな影響力を得ていたリビアに対するNATOの空爆とカダフィ大佐の殺害(2011年)を挙げました。
林さんは、冷戦以降、債務危機の問題などにより非同盟運動は退潮傾向にあったが、2003年の米国のイラク侵略を受けて開かれた第13回非同盟諸国首脳会議と06年の第14回会議によって運動は息を吹き返したといいます。
最後に、「人権」や「民主主義」の仮面をかぶった他国への内政干渉を批判するうえで、国際法の擁護と反帝国主義という視点を放棄してはいけないことを強調しつつ、「社会主義の役割全体を見直し、なおかつそれを第三世界論の中に位置づけていきたい」と強調しました。
(※)ジャン・ブリクモン(菊池昌美訳)『人道的帝国主義―民主国家アメリカの偽善と反戦平和運動の実像』(2011年、新評論)
新たな秩序へ
連続講座では第三世界の「未来」について、HOWSの大村歳一さんが聞き手となり、林さんが解説しました。
林さんは、米国を一極とした秩序が変化し、「多極化」の局面が明確に現れているとし、新たな秩序を生み出すために「第三世界の組織化こそが今後の非同盟運動が担わなければならない役割だ」と強調しました。また、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカという新興国から成る経済的な枠組み。また、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新規加盟も決まっている)を「非西洋の新たな大国たち」と位置づけ、「脱ドル化が第三世界、BRICS主導で進められているなか、1970年代にあったような新国際経済秩序を生み出していかなければならない」と訴えました。
さらに、2020年以降、アフリカのマリ、ブルキナファソ、ニジェールなどで政権交代が行われていることに触れ、旧植民地宗主国のフランスを追い出すことで、新植民地主義的な支配体制の解体が目指されており、そこで中国やロシアとのつながりが強くなっているとのべました。
林さんはウクライナ戦争については、国際法に照らして評価する必要性を示しながら、戦争が起こりうる要因を生み出した1990年代以降の米国によるNATO東方拡大政策が厳しく批判されてしかるべきだと主張しました。
最後に、林さんは米国と西欧による「大西洋秩序」の動揺が第三世界と中国・ロシアとのつながりのなかで起きており、いま構造化しつつある新たな秩序を推進するのが非同盟運動だと講義を締めくくりました。
取材後記
移りゆく国際情勢を「第三世界」という視点で読み解いていくことで、これまで見えていなかった構造、埋もれていた「声」を聞くことができます。
現在、既知の通りパレスチナとイスラエルを取り巻く情勢に注目が注がれています。1975年、リマ(ペルーの首都)で行われた非同盟諸国外相会議にて、PLO(パレスチナ解放機構)と朝鮮民主主義人民共和国の非同盟運動への参加が決まりました。1970代に入り、第三世界、とりわけ非同盟運動における主要な課題は「パレスチナ問題」と「朝鮮半島問題」でした。第三世界諸国が結集されたことにより朝鮮は、当時の国連が大韓民国のみを「唯一合法政府」としていた中で、初めて朝鮮の立場に沿った朝鮮国連軍司令部解体決議を総会にて採択することができました。
しかし、朝鮮半島では朝鮮戦争が依然として停戦状態で北南分断状況が続いており、パレスチナでも依然としてイスラエルの占領政策が続いているなかで、やはり今改めて政治経済的にも「反帝自主」という第三世界、非同盟運動の根本原理に立ち戻り、一つの大きなうねり、新たな秩序、新たな社会を創造することが求められています。
2019年、アゼルバイジャンのバクーで開催された第18回非同盟諸国首脳会議で採択された「バクー宣言」には「パレスチナ問題の解決と中東難民の処遇へ緊急の努力のよびかけ」という内容があります。現在、国際情勢においては米国の動きが重点的に報じられていますが、第三世界が歴史の「主体」となり世界の諸問題を解決していくべきです。今こそ、第三世界に注目を。(哲)