今、この時代に尹東柱を描く 演劇『星をかすめる風』
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青年劇場第131回公演『星をかすめる風』が9月の東京公演を皮切りに日本各地の演劇鑑賞会で上演されている。日本の植民地支配末期の抵抗詩人、民族抒情詩人の尹東柱(1917—1945)を題材にした今作。韓国の作家であるイ・ジョンミョンさんの小説をもとに、劇作家のシライケイタさんが脚本・演出を担当した。2020年に初演を迎え3年ぶりの再演となる。
なぜ今、尹東柱がふたたび描かれたのか―。
星空の下で叫ぶ
舞台は1940年代、朝鮮がまだ日本の植民地支配にさらされていた頃の福岡刑務所。所内で起こった看守・杉山道造(北直樹)殺人事件を新たに配属された看守の渡辺優一(岡山豊明)が解明していくサスペンス・ミステリーだ。
殺害された看守のポケットには一編の詩「懺悔録」が。本を愛する渡辺は「文章で読み解く」手法で犯人を捜していると、同じ考えを持ち、杉山と交流があった囚人にたどり着くー。朝鮮語で詩を書き治安維持法違反で投獄されていた尹東柱(矢野貴大)だ。
物語は尹と杉山を中心とした「過去」そしての尹と渡辺を中心とした「現在」の2つの時間軸で進んでいく。「懺悔録」「自画像」「序詩」そして「星を数える夜」。劇を織り成す尹の詩は観るものを舞台に引きこむ。
杉山や渡辺は最初、尹を看守番号「六四五番」や日本名「平沼東柱」と呼ぶが、尹は答えない。日本の植民地支配における朝鮮人は名前すらも奪われた(「創氏改名」)。自らの存在証明のために尹は叫ぶ。「私の名前は、尹東柱です」。
看守の杉山を尹が紡ぎ出す美しい言葉が少しずつ変えていく。一方、尹は渡辺の心の琴線にも触れる。他の囚人たちをも文章を用いて「解放」していく尹。そして杉山を殺害した犯人が判明し、物語は佳境へ。病で倒れそうな中、尹は最期、渡辺の傍で夜空を望みながら朝鮮語で「星を数える夜」を暗唱する。
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