沖縄取材雑記Vol.2 「弾道ミサイルの可能性のあるもの」
広告
「速報」。11月22日に筆者が沖縄入りする前夜、荷物をまとめて寝床につこうとしていた頃、目の覚めるニュースが飛び込んできた。
「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるもの」が発射されたとし、「沖縄上空を通過した」ため、全国瞬時警報システム(Jアラート)が沖縄県で発令され、住民の避難が呼びかけれられたのだった。
朝鮮戦争停戦から今年で70年、今なお朝鮮半島に続く戦争状態の中で、朝鮮民主主義人民共和国の目と鼻の先で米韓、米韓日による軍事演習が繰り返されている。そのような中、朝鮮が安全保障上の観点から他国の状況を把握するための軍事偵察衛星の発射に踏み切った。
沖縄でJアラートがどのように思われているのか、生の声を聞こうという意識を持ち取材を試みた。
取材雑記Vol.1にも登場したタクシー運転手Aさんは、「沖縄の人たちは、あんな夜遅い時間に起こすなよという感じです」と口を切る。「放送自体、窓に近い人は窓から離れ、地下に避難できる人は避難してくださいと限定されていましたが、家に地下を持っている人なんて普通はいないじゃないですか。あの知らせを聞いて避難する人はほぼいないと思います」と率直に語った。
「あれは沖縄の人を守るためのものではなく、脅すためのものだ」と指摘したのは、11月23日の県民平和大集会で出会った浦添市在住の女性。「沖縄の人たちはもうみんなわかっている」と一緒にいた那覇市在住の女性と口を揃えた。そのうえで、「Jアラートは、県民を不安にさせて、基地がないとだめだと思わせるための日本政府のやり口だ」と看破した。
辺野古の海で米軍新基地建設反対の活動に取り組む金井創さんも「真夜中にうるさいだけだ」とばっさり。「朝鮮が人工衛星と言っていたのに、なぜミサイルに変えられていたのか」と疑問を呈しながら、「それでJアラートを鳴らすくらいなら、学校の上や教会の上に米軍機が飛んでいる時に鳴らしてほしい。そっちの方がよっぽど『脅威』だ。沖縄人を慣らそうとしている」と危機感をあらわにした。
朝鮮は事前に人工衛星の発射を通告していた。にもかかわらず、日本の防衛省は「弾道ミサイルの可能性があるもの」が発射されたとし、日本政府、メディアもそれが「沖縄県上空を通過した」という表現を繰り返した。
しかし、冷静に考えてほしい。朝鮮の人工衛星はあたかも沖縄県の頭上を通過したように騒がれていたが、人工衛星は一般的な飛行機よりはるか上空、約600キロメートル離れた「宇宙空間」を飛行する。沖縄で筆者も何度か経験したが、空を見上げると目に見えるところで騒音を立てながら米軍機が飛行していた。度重なる墜落や部品落下により今は運用が止められた米国製オスプレイの方がより脅威であろう。日米両政府の合意により、米海兵隊の輸送機MV22オスプレイの飛行訓練の最低高度は高度約60メートルまで許されている。筆者も沖縄で車を運転中、死角の頭上で鳴り響く軍用機の羽音(会話が遮られるほどの騒音)には唾を飲み込んだ。
また、朝鮮の自衛的行為は常に朝鮮の方を向いている在日・在韓米軍基地のプレゼンスを抜きにして語ることができないだろう。
現在、沖縄の米軍基地、自衛隊強化を図る権力者は常に「台湾有事」、朝鮮の「脅威」を煽り立てる。アジア太平洋戦争の時期に、沖縄は日本「本土決戦」のための「捨て石」とされ、当時の沖縄の住民の4分の1が犠牲になった。にもかかわらず、「地政学的価値」といった取って付けたような根拠を持ち出し、米軍基地、自衛隊基地の強化により東アジアに対する日本の攻撃的戦略の「最前線」に立たされている沖縄に訪れ、さらに徹底した反戦平和意識の重要性を改めてかみしめた。(哲)
本日の一枚
東京にいた頃は、編集部のオフィスに仲間入りしたコーヒーメーカーにより、半ばコーヒー「中毒」になりかけていた筆者だが、沖縄ではさんぴん茶「中毒」になりかけた。写真はその一部