ドラマチックを味わう
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3月21日、W杯アジア2次予選(朝鮮対日本)の試合を観戦した。スポーツ全般に疎く普段の関心度はかなり低い方だが、やはり目の前で見られるとなると楽しみである。
この日、国立競技場を訪れたのは約6万人。冷たい風が吹きすさぶなか、だれもかれもが声を振り絞ってチームを応援していた。
私は同胞応援団が陣取った席の2階で見ていたが、1階では大きな共和国旗がなびき、人々が声を合わせてなにかしらの応援歌を唄っていた。一緒に唄いたかったが距離があってうまく聞き取れない。ああやって周りと一体になって夢中で応援するのも良い気分だろうなと少しうらやましかった。
ならば自分は選手の名前を呼んで応援しようと考え、朝鮮新報のサイトを開いて選手の名前が紹介されているページを探す。しかしログインしないとサイト内検索ができず、咄嗟にパスワードも出てこないから求める情報にアクセスできない。仕方なく「朝鮮 サッカー 代表選手 名前」などで日本の記事を検索したが、見当外れな記事ばかり出てきて焦る。
途中からしきりにスマホに目を落とす私を見かねて、どうしたと問う友人にわけを話すと「もう『北朝鮮』って入れるしかないんじゃない? 嫌だけど」と返され、そうすれば早いことは自分も充分わかっていたのだけどやはりか、と歯がゆさを覚えた。
ただ友人が同じ感覚だったことに少し安心を覚え、せめてもの反抗心で思いきりしかめっ面で「北朝鮮 サッカー 代表選手」と打ち込み検索。たちまち探していたような記事が見つかる。番号と名前を照らし合わせながら選手の名前を叫んで応援したらようやく気分がスカッとした。
肝心の試合はというと、前半開始まもなく1点を取られた朝鮮代表は、(素人目で生意気だが)以降もずっとチームワークが悪いように感じられ、もどかしくてヒヤヒヤしてたまらなかった。そのまま点を返せず前半終了。私は若干テンションが下がったまま、休憩のうちにトイレに行った。
列が混んでいたので少し遅れて競技場へ戻ってみると、同胞応援団がやにわに盛り上がりを見せている。後半が始まっていたのだった。なにごとかと急いで自席に向かいながらグラウンドへ目をやった瞬間。朝鮮側がゴールを決め、周囲が一気に湧き上がった。
私もつられて歓声を上げて通路から友人の姿を探すと、同じく私を探していたであろう友人と目が合って一緒に喜びの叫びを上げた。個人的に、この日いちばんのドラマチックな場面だった。満面の笑みで席に座る。友人曰く、後半に入って人が変わったように動きが良くなったという。
だが様子がおかしい。朝鮮選手たちが審判に抗議をしているようだ。そして周囲からは落胆の声。聞くと、直前のファウルによって先ほどのゴールは無効らしい。残念だが仕方ない。
それでも朝鮮代表はまた積極的なプレイを展開し、途中からはチーム唯一の在日朝鮮人である文仁柱選手(FC岐阜所属)もグラウンド入り。後半は終始、刺激的な時間となった。
結果は負けで、もちろん悔しかったものの、不思議とさっぱりした気持ちが残った。
大声を出すのが良かったのだろうか。一体感から得られるエネルギーがあるのだろうか。久しぶりに朝鮮の人々を間近で見られた喜びか。良いリフレッシュになったような気がした。こうした、たまの経験が日常のちょっとした糧になることを実感した。(理)