【イオニュースPICK UP】労働、家族、軍事侵攻―“パレスチナの日常を見つめて”/写真家の高橋美香さんが講演
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昨年10月7日以降、イスラエルによるパレスチナに対する攻撃が激化し、ガザ地区では3万5000人以上、西岸地区でも500人以上が殺害されている(5月20日時点)。高橋さんは昨年12月から今年2月にかけて約2ヵ月間、現地を取材した経験から、パレスチナの人びとの現在の暮らしについて写真とともに話をした。(文・写真:康哲誠)
等身大の姿を知ってほしい
高橋さんは冒頭、イスラエル領内ガリラヤで暮らすパレスチナ人一家を訪れた話をしたうえで、「目に見えやすいガザ地区の空爆を止めることが先決ではあるが、イスラエル領内のパレスチナ人が差別の構造の中に置かれ、二級市民として暮らしていることもあってはならないことだ」とし、パレスチナに対する継続する入植、占領、暴力に目を向けることを訴えた。
高橋さんは、「10月7日」(抵抗組織ハマスがイスラエル領に越境攻撃をしかけた日)が問題の発端ではないと繰り返し強調しているが、10月7日以降にイスラエルのパレスチナに対する弾圧がより強まっていると現地の人びとが話していたと振り返った。
高橋さんはイスラエル北部の街ナザレ、そしてエルサレムにも滞在した。エルサレムの市街は、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒、アルメニア人の4つの地区に分けられているが近年、ユダヤ教徒地区以外に暮らす人びとに追放命令が出されたり、家屋が破壊されたり、ユダヤ人入植者が暴力的に移り住んでくるのが現状だと語った。
高橋さんは、西岸地区のジェニン難民キャンプの状況を聞いてはいたが実際に訪れると、「こんなにひどい状況なのか」と思ったという。キャンプ内の下水管、水道管を破壊されたり、追悼碑、記念碑などのモニュメントも破壊されていた。
高橋さんと交友の深いマハの次男・ムハンマドの子どもは昨年7月に生まれたが、同じ時期に2日間にかけてイスラエル軍が難民キャンプに軍事侵攻したことで、ミルクを買いに行くこともできず、栄養失調となり一時は命も危ぶまれたが、なんとか一命をとりとめたという。そして今回、父と息子の和やかな写真を収めることができた。
高橋さんはまた、貴金属店がイスラエル軍に襲撃され、中の貴金属と現金をすべて「接収」という名の下に根こそぎ奪われたという話を聞いた。また「ダビデの星」が嫌がらせで描かれたポスターもあった。
さらに、現地にいた2ヵ月間、3~4日に1回は、イスラエル兵が軍事侵攻してきて、どこかが破壊される状況で、壊されては直すを繰り返す状況だったという。
ジェニンを南下したところにあるパレスチナ自治区ヘブロンでも、入植者とイスラエル軍兵士から頻繁に襲撃を受け、住民たちが去っていくと、そこに入植地をつくるということが繰り返されている。高橋さんは、そこで出会った「自分は殺されてもここを離れない」という遊牧民の話をした。「なぜそこまで覚悟を持たなければ、生きることができないのか」と高橋さんは問いかける。
ジェニンの難民キャンプでは、働いて、ご飯を食べて、家族とくつろいで、また軍事侵攻が起きて、誰かが殺されるという日々が淡々と続いているという。
高橋さんはまたイスラエル軍に抵抗するパレスチナの青年が、報道では「テロリスト」と呼ばれることにも言及。この日の講演を通じて、「パレスチナの人々1人ひとりにそれぞれの名前や人生があること、このような状況で生きざるを得ないこと。その等身大の姿を知ってほしかった」と思いの丈を語った。
講演後には、質疑応答も行われた。
パレスチナの人びとは外部の人びとがこの地で起きているジェノサイドにどのように向き合うことを望んでいるのかという質問に対して高橋さんは、「現地の人びとには『どんな形でもいいから、忘れずに声をあげて』と言われている」としながら、「写真展を開催したり、話をしたり、それぞれのやり方でこの虐殺を止めるための行動を起こすしかない」と問題提起した。
本連続講座は、パレスチナの人びとが被り続けている悲惨な状況と必死の抵抗の歴史を知り、連帯のあり方を考えることを目的に企画された。
次回は6月1日。「パレスチナ解放闘争の歴史と現在を知る―わたしたちはいかに連帯すべきか」と題し、役重善洋さん(同志社大学人文科学研究所研究員)が講師を務める。時間は17時から20時を予定、受講料は1500円(学生1000円)。問合せは、hows@dream.ocn.ne.jpまで。
高橋さんは、東京・豊島区の床屋ギャラリーで写真展を開催する。詳細は以下の通り。
高橋美香 写真展 パレスチナに生きるふたりママとマハ
日時:6月7日(金)~16日(日) 金・土・日12:00~17:00/9日(日) 14:00~高橋美香さんによるギャラリートーク(無料)
場所:床屋ギャラリー(東京都豊島区南池袋3-15-7、JR池袋駅徒歩5分)