連載「ウリハッキョの学校保健」を書きおえて
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今年初めから(鳳)さんと取材を進めてきた
「ウリハッキョの学校保健」https://www.io-web.net/2024/07/tankirensaiurihakkyohokenshitsu/の連載3回目を、先日書き終えた(掲載は8月19日発売の本誌9月号)。
「学校保健」というひとつのテーマに特化して、半年の間取材を重ね、「あるべき学校保健」のかたちを模索し、言語化する過程は、「あーそういうことだったんだ!」という気づきと、「こんな大切なことに気づかなかった私って…」というあきれを含め、ジェットコースターを乗り降りするような喜怒哀楽を繰り返した時間だった。思い入れのあるテーマになりそうだ。しかし、関係者の努力を考えると、あまりにも遅い問題意識だった。
学校保健—心と体の健やかな育ち―が自分自身にとっての関心事となったのは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大だったように思う。わが家では、当時中3、小6、小3だった子どもたちが通う学校が休校。「学校に行けない」と知らされたときの子どもたちの表情は、「当惑」と「悲しみ」が、ないまぜになったものだった。
卒業前の「1ヵ月」を楽しみにしていただけに、友だちと会えない寂しさが一気に募ったようで、「学校に行きたい」「友だちに会いたい」を連発していた。
一方の親は、「家で何するの?」—。
もちろんオンライン授業の時間は勉強をしていたが、空いた時間にゲームやスマホ漬けにならないよう、手探りをしながら生活していたように思う。
親子の衝突もいろいろあったなぁ…。
今となっては笑い話だが、あの頃はみんなが暗中模索で必死だった。狭い家に人口密度が高まるだけに、息苦しさのあまり近所のお寺まで散歩に行ったり、カーゲームを買ったりと、目先を変えるためにあれやこれやを考え、日々を過ごしていた。
編集部も在宅勤務を取り入れ、2チームが交代しながら出社体制をとった。
そんななかで(理)さんが提案した特集が、
2022年6月号の「弱った心の見つめ方」だった。
https://www.io-web.net/2022/06/kokorotokusyu/
誰でも心にかぜをひくことはある。その時にどう向き合うか、という処方箋も示された企画で、時機にかなったものだと思った。冒頭のエッセイは、精神保健福祉士のシン・ジョンスンさんが温かい文章をよせてくださった。
繰り返される感染拡大を乗りこえ、学校は通常登校に戻ったものの、心にしんどさを抱え、学校から足が遠のく子どもたちは増えた。保健室の設置・運営は「渡りに船」で、現場のニーズを汲みとった同胞医療人たちの献身により、それぞれのしんどさに対応する場が生まれていった。
前述の特集では、2014年に関西で始まった学生家庭相談室や各地の保健室を紹介。
在日本朝鮮人医学協会(以下、医協)のメンタル部会の専門家には、コロナによる生活環境の変化が朝鮮学校に通う子どもたちの心理、身体、生活にどのような影響を及ぼしているのかを明かすための「メンタル調査」について詳細に書いていただいた。ストレスに対する自分助け―コーピングについては公認心理師さんに紹介していただいた。
今回、保健室の連載をしながら思ったことをメモしたい。
日本各地の朝鮮学校には、保健室という部屋を設けているところから、部屋すらない場所もある。さらに保健室に毎日出勤する「常勤の養護教諭」を置く学校は一つしかなく、専門家がいるとしても週に1,2回の勤務となる。
①保健室マニュアルの共有
朝鮮学校初の常勤養護教諭となった徐千夏さん(兵庫県)は、子どものケガなどの応急手当や事故対応に関するマニュアルを作り、自分が保健室にいないときに他の教職員が対応できるよう、しっかり資料を準備していた。京都朝鮮初級学校の曺元実先生(養護教諭)も同様。各地の学校でも充分参考にできると思う。これらの資料を共有できる仕組みを作れないだろうか。
②保健室応援基金
日本の学校には、法律の定めにより養護教諭、スクールカウンセラーなどの専門家が配置されるが、朝鮮学校は各種学校という位置付けのため、それが難しい。
よって、日本各地の朝鮮学校の健康診断の実施、保健室、相談室の運営は、各地の医師、看護師、公認心理師、臨床心理士たちが支えている。その多くがボランティアだ。日本の高校などで養護教諭を経験した日本の元先生方も朝鮮学校の保健室を支援している。
京都では、日本の市民団体である「こっぽんおり」が2015年から京都、滋賀の保健室を支援する基金を作り、毎年まとまった額を支援している。
https://mezasuhakkyok.wixsite.com/website
各地で、ウリハッキョの学校保健に特化した基金を作ることも可能だと思う。
③人材バンク
それでも保健室、学校保健を正常に回していくための人とお金は決定的に足りない。7月27日、大阪で初めて朝鮮学校保健運営セミナーが医協主催で行われ、広島、兵庫、京都、大阪の経験が発表された。約30年前からシステムづくりを進めてきたフロントランナー・兵庫をはじめ、常勤の養護教諭を置く京都など、それぞれの試行錯誤と経験からヒントを得られるだろう。
医協が同胞学生を対象に定期的に開催している「コリアン医療・福祉フレッシュセミナー」(23年に18回目を重ねた)が象徴的だが、朝鮮学校を支援する人材をつなげることがますます課題だと感じた。まさに「望む、人材バンク」だ。
何をしようにも一人の力では限界がある。この間、私たちのつたない問題意識に向きあい、取材をコーディネートしてくれたのも同胞医療人をネットワークする医協の方々だった。
これぞ、組織の力、人を結ぶ力。
人をつなげるという意味においては、イオが果たすべき役割も小さくない。次の一手を考えている。(瑛)
※明日8月10日から18日まで、ブログ日刊イオは夏期休暇のため、お休みになります。ブログは19日から再開します。