江原道のカエルを思い出す
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夏の鎌倉へ。高徳院(大仏があるところ)、長谷寺(銭を洗って金運アップを祈願するところ)、佐助稲荷神社(源頼朝が作らせたところ)、報国寺(竹林が有名なところ)など、TVやガイドブックで紹介されている王道の観光地をいくつも見て回った。
また、観光と言えば食べ歩き。飲食店やお土産屋が立ち並ぶ商店街・小町通りもぶらぶらした。フルーツ餡が添えられた団子、チーズカレーパン、ぬれ煎餅、ご当地サイダー、しらす丼、コロッケ…。目移りしながらも同行者とそれぞれ好きなものを買って歩いていると、とある店先に貝殻で作られた小物が陳列されていた。
近づいてよく見たらカメの形をしており驚いた。すべて貝殻で、指先にのるほど小さなものから手のひらサイズまで、大小たくさんのカメが並んでいる。瞬間、(あっ!)と思い出すものがあった。江原道のカエルだ。
2017年夏、記者として朝鮮民主主義人民共和国に滞在していた。現地で見聞きする様々な事柄を記事だけでなく日刊イオでも伝えようと、【平壌発】と題して定期的に紹介していた。そこで取り上げたのが以下。
平壌市内で行われた「全国 8.3人民消費品(※)展示会」で見つけたものである。
※8.3人民消費品~工場などで通常生産するものとは別に、人々のより細かなニーズに応えるため手作りされた製品のこと。生活の中で出た、一見ゴミになりそうな物や自然の資材が用いられているため材料費はほぼゼロ
さまざまな大きさ・形の貝殻を使い分けながら、見事なまでにカエルを表現している。目が釘付けになりその場を離れられないでいるとブースの責任者が一つくださった。聞くと、江原道の海で採れた貝殻で作ったものだそう。
繊細な作りだったので思い出とともに大事に大事に日本へ持ち帰り、しばらくは家の中に飾っていたカエル。しかし、急いで家を出る支度をしている時などに衣服の裾や手を引っかけてたびたび床に叩き落してしまい、ある日ついに修復不可能なまでに粉々になってしまったのだった。
あんなに惜しんで処分したというのに、物自体が消えるとそれがあったことすら思い出せなくなってくる。それでも、なんとなく似ているものを見つけたことで数年ぶりに当時の愛着がよみがえってきた。
誘われるようにして店の奥の方へ。すると、なんともかわいらしいカルガモがたくさん。一つひとつの色も鮮やかで、「色を塗っているんですか?」と訊くとすべて天然の模様だそう。2羽で1セット100円という破格の値段ということもあり、気に入った4つを購入した。
家に帰って飾ってみた。形は変わってしまったし、この貝殻が採れたのも日本の海岸ではあるのだが、目の端に留まるたびに7年前のウリナラとそれに紐づくさまざまな映像の断片が浮かんでくる。これからはカルガモを通してカエルを偲ぶのだ。
当時のブログもよければぜひ。(理)
江原道のカエル【平壌発15】
https://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/d/20170823