【イオニュースPICK UP】次回調査で遺骨発見も/長生炭鉱の遺骨発掘進める水中探検家が報告
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山口県宇部市の長生炭鉱では、1942年2月3日、坑道の天盤崩壊により海水が浸入し、日本の植民地期に日本に渡ってきた朝鮮半島出身者136人を含む183人が犠牲になった。今も海底で眠る犠牲者の遺骨収容に向けた潜水調査を進める水中探検家の伊佐治佳孝さん(36)が12月11日、衆議院第2議員会館(東京・永田町)で調査の進捗状況や今後の展望などについて報告した。
遺骨発見の可能性を実感
この日の報告会には、「刻む会」事務局長の上田慶司さん、社会民主党党首の福島みずほ参議院議員と副党首の大椿ゆうこ参議院議員、犠牲者・權道文さんのひ孫にあたる鄭歩美さん(37)が同席した。
日本政府が自らの植民地支配責任、戦争責任と向き合わない中、「刻む会」は、今年7月中旬から10月中旬にかけて遺骨の発掘調査に向けたクラウドファンディングを実施。9月末には「刻む会」をはじめ市民の力で坑口を開けるという大きな進展をもたらした。
伊佐治さんは、昨年12月、韓国の遺族が初めて参加した「刻む会」と政府との交渉を見て、坑道の中に遺骨が遺されていることを知った。「私の協力が遺骨の回収につながれば、悲しい事故で亡くなったご遺族の方々も安らぐのではないか」という思いから調査に携わることになった。
伊佐治さんは10月29、30日、海上から見える2本のピーヤ(排気筒)から調査を行った後、坑口から木枠で支えられた坑道(縦160cm、横2m20cm)の内部を調査。坑口から100~200m先まで進んだ。
坑道内は、透明度が高い時は手元が見えるし、低い時には手元が見えないくらい濁っていたという。一方、「閉鎖環境」で潜水する専門家として、同様な条件下での潜水経験があることから、坑道に入ること自体のリスクは回避できるとしながら、手探りで入っていけるほどの構造物しかなかったので、 現時点では透明度が低いから入れないことはないと話した。伊佐治さんは、坑道を支える木枠が空気に触れる坑口部分が最も崩壊のリスクが高いと説明。そのため現在、コンクリートなどの支持物を設けて安全性を高めるのための方策を議論しているという。
次回、来年1月31日~2月2日の3日間にかけて行われる潜水調査では、「遺骨がある可能性が最も高い」と資料や証言で裏付けされた、坑口から300m~400m先の水深が最も深い地点まで到達することと、そこまでに至る経路上の安全確保を目標としている。伊佐治さんは、「(調査期間の)3日間で遺骨を見つけられる可能性は高いのではないか」との見通しを示した。
朝鮮半島北部出身者の遺骨、対応を
犠牲者遺族の鄭歩美さんは、「物心ついた頃から宇部の海水に半身が浸かった気分で無力感にさいなまれながら生活している。孫である父が遺骨引き揚げの場面に立ち会える期待を抱いた」と語った。一方、「行政の協力がもっとあれば、調査は安全がより確保されたものになるのに、と非常に複雑な気持ちで(伊佐治さんの)報告を伺っていた」と心情を吐露。行政に対して、遺族が納得できる真摯な対応を求めた。
この日の報告会には、国会議員や多くの報道関係者が集まった。
山口から上京した「刻む会」運営委員の金静媛さん(山口県朝鮮人強制連行真相調査団事務局長)もマイクを手にした。
静媛さんは、「136人の犠牲者の中には、朝鮮半島北部に本籍地を置く方が5人いる。朝鮮民主主義人民共和国と日本の国交正常化がなされていない中、その人たちのご遺骨が見つかった場合の対応について会として取り組んでいきたい。運動が大きく前進した今、遺骨返還について朝鮮半島という一つの枠組みで対応するために、皆さんにもご協力いただきたい」と訴えた。
「刻む会」は12月下旬と2025年1月中旬に遺骨のDNA鑑定と返還に関する専門家相談会を開催する予定。また、坑口の補強工事および遺骨のDNA鑑定、返還の事業予算として600万円を募る第2次クラウドファンディングを実施中だ(来年2月15日まで) 。
「刻む会」事務局の上田さんは、「2025年を必ずや遺骨返還の年にしたい」と意気込んだ。(文・写真:康哲誠)
※クラウドファンディングの詳細は「刻む会」のHPから。