求められる、具体的かつ実効性ある人権条例
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京都府が今年4月の施行を目指す「京都府人権尊重の共生社会づくり条例(仮称)」の骨子案に対して、市民社会からの批判が強まっている。
同条例の骨子案は、府の人権教育啓発推進懇話会での議論もほとんどされないまま、12月12日の府議会の定例会、文化生活常任委員会で提出された。京都では2009年に京都朝鮮第1初級学校襲撃事件が、21年にはウトロで放火事件が起こるなど深刻なヘイトスピーチ、ヘイトクライムが相次いでおり、実効性のある差別禁止条例の制定が求められていた。しかし、明らかになった条例案の骨子には差別的言動についての定義や明確な差別禁止規定が含まれていなかった。
翌13日にはパブリックコメント募集が始まった。条例の制定に際しては、当然ながら、差別の被害にさらされているマイノリティの声が反映されないといけない。しかし、今回のパブコメは昨年12月13日に募集が開始され、年明け5日には終了となった。意見の提出期間は原則として30日以上とされていることを考えると、年末年始を挟んだこの提出期間は明らかに短く、市民に十分な周知がなされたとはいいがたい。
1月20日、京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会をはじめとする市民団体のメンバーらが京都市内で記者会見を開き、条例の骨子案へ異議を申し立てた。会見では、「ヘイトスピーチを許さない包括的な差別禁止条例の制定を」と題した要望書が読み上げられ、会見終了後に府の担当者に手渡された。市民団体側は要望書を通じて以下のような懸念を表明した。
・京都は在日コリアンへのヘイトスピーチ、ヘイトクライムの被害が深刻な地域にもかかわらず、条例骨子案の策定過程で被害当事者からの意見聴取の場が設けられていない。このような府の姿勢は、今も差別やヘイトに苦しむ在日コリアンへの視点を欠いている
・全国各地で差別禁止条例が制定され、条文に差別的言動の定義とその禁止、ひいては罰則が規定されているにもかかわらず、今条例骨子案には具体的な予防施策を講じる必要性が示されておらず、差別禁止規定も入っていない
・差別の問題を一人ひとりの「内心の問題」であるかのように取り扱っている
そのうえで、
・人権条例制定に際して、まずは公的機関が差別的言動や差別的取り扱いを行わないことを宣言し、明確な差別禁止規定を定め、被害者の人権救済に取り組むこと。そのうえで、内心の問題を教育や啓蒙の取り組みに位置づけること
・関連諸団体がパブコメとして提出した意見を真摯に検討すること。被害当事者との面談の場を設けて、その声を真剣に受け止めること
これらを踏まえ、京都府および府議会が、差別禁止規定を明記し、推進計画に人権侵害を受けた被害者の尊厳回復をめざす施策を盛り込み、差別犯罪を繰り返させない実効性のある包括的な人権条例を制定するよう求めた。
1月30日には「住民自治で差別を許さない人権条例を求めよう 緊急集会」が1月30日夕方から同志社大学内で行われ、オンラインを含めて120人が参加した(主催=住民自治で差別を許さない人権条例を求める市民有志の会、同志社コリア研究センター)。
現在、「住民自治で差別を許さない人権条例を求めよう 緊急署名!」も行われている。▼拙速な条例制定を一旦ストップし、パブリックコメントでの「提出された意見」と「府の考え方」を2月府議会審議前に府民に公開すること、▼京都府で起こったヘイトクライムの被害当事者を含めた幅広い府民の声を聞く場を設置し、府民参加で条例制定を進めること、▼差別を許さないという京都府の姿勢を「条項」として明記し、実効力のある条例制定を進めること、の3点を府側に求める内容となっている。
署名はオンラインでも募っている。
川崎市で2019年に制定された「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」は、差別禁止条項に加え、日本で初となるヘイトスピーチへの刑事罰規定が盛り込まれた。このような具体的かつ実効性のある条例制定の動きが各地へ波及しているとすれば、その反対に、深刻なヘイトスピーチ、ヘイトクライム事件が多発している京都で「後退」した条例が制定されてしまえば、それがほかの地域に負の影響を及ぼすのではないかと懸念する声が相次ぐのも当然だろう。
京都朝鮮学校襲撃事件の民事訴訟の判決では、差別を禁止する規制の必要性が示された。この司法の判断に行政が応えるという意味でも、今回の京都のケースは重要な意味を持つ。京都府民でない人びとには関係ない、とは言えない。(相)