【イオニュース PICK UP】今も踏みにじられている尊厳 強制徴用被害者遺族らが訴え
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強制動員問題は終わったのか?

院内集会「強制動員問題は終わったのか?原告遺族は訴える」
「強制動員問題は終わったのか?原告遺族は訴える」と題した院内集会(主催=「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」)が4月11日、衆議院第一議員会館で行われた。
2012年5月24日、強制徴用被害者らが三菱重工や日本製鉄などかつての戦犯企業を相手に損害賠償などを求めた訴訟で、韓国の大法院(日本の最高裁に相当)は「個人の請求権は消滅していない」として、原告敗訴の下級審判決を破棄し、高裁に差し戻す決定をした。

院内集会「強制動員問題は終わったのか?原告遺族は訴える」
それから10年後の2018年、差し戻し審で裁判所は企業側の責任を認めたものの、その後、企業側が判決を履行せず、さらには23年3月、尹錫悦政権が被害者への賠償を韓国の財団が肩代わりする「第三者弁済」案を発表。戦犯企業の賠償責任を度外視し、被害者とその遺族たちの分断を招く同案をめぐっては、原告15人中、故・朴海玉さんを除く14人がこれを受け入れた一方で、日本の企業が資金を拠出した事実は確認されていない。
集会は、被害者たちの尊厳回復はおろか、かれらを置き去りにした状況に異を唱え、解決のために市民たちが声をあげようと企画された。
はじめに、集会に合わせて来日した、日本製鉄訴訟原告・故李春植さんの長男・李昌煥さんが発言した。

日本製鉄訴訟原告・故李春植さんの長男・李昌煥さん
李さんによると、父の春植さんは、日本製鉄釜石製鉄所で強制労働に従事した後、神戸の連合軍捕虜収容所に徴兵され、そこで祖国の解放を迎えた。しかし解放後も故郷に戻らず、強制労働の対価を求めて釜石に向かったという。
李さんは、「どれほど悔しかったら、1000キロを超える遠い道を行ったのでしょうか」とのべながら、大法院で勝訴判決を勝ち取った当時、春植さんが先に亡くなった仲間を思い、「今日は人生で最もうれしく悲しい日」だと涙を流したことを回想した。
また今年1月に亡くなった春植さんが、「先に亡くなった人たちに恥ずかしくない結果を勝ち取る」として、日本政府や日本製鉄の謝罪および賠償を最後まで求めていたことに触れたうえで、日本政府と戦犯企業による真摯な謝罪と賠償が、「被害者の大きな傷と長年にわたる苦しみを癒す唯一の道」だと訴えた。

発言する金英丸さん
韓日歴史正義平和行動事務局長で、民族問題研究所の金英丸さんは、この問題で存命中の被害者がほとんどおらず、遺族も80代以上であるなか、家族や親族内に分断をもたらす状況を日韓政府がもたらしたと強く非難した。そのうえで「これは人権の問題であり、名誉回復、尊厳の問題だ。改めて言うが、強制動員問題は終わっていない」と引き続き関心を寄せるよう呼びかけた。
この日の集会には、国会議員たちも参加した。大椿ゆうこ参議院議員(社民党副党首)は「日本の責任として強制労働の歴史を解決することに力を注ぎたい」とのべた。

大椿ゆうこ議員
また「戦争と植民地支配で傷つけられた『人間の尊厳』の回復を求めて」と題して特別報告を行った弁護士の川上詩朗さんは、「朝鮮人の自決権を奪った植民地支配下での強制連行・強制労働は、人間の尊厳を奪う重大な人権侵害」であると指摘。「救済するための取り組みに時効はない。回復が完成するまでやらなければならない」と、責任を果たさない日本政府にNOを突きつけていく必要があるとした。
日本の外務省は今月8日、2025年版「外交青書」を公表。今般の「第三者弁済」について「韓国の財団が支給する予定であると表明している。韓国政府は今後も原告の理解を得るため努力をしていくとしており、日本政府としては、引き続き韓国側と緊密に意思疎通を行っていく」と言及した。事実上、賠償責任は負わないとの表明ともとれる。

弁護士の川上詩朗さんが特別報告を行った。
日本政府が強制労働を認めないまま進められる日韓の一連の動きについて、専門家からは「朝鮮人強制労働否定の新たな形態」(歴史研究者・竹内康人さん)などとの指摘が相次ぐ。
「立場によって見解は異なるかもしれない。しかし、強制動員が紛れもない事実であることに変わりはない」。集会当日、報道陣から、強制動員問題をめぐるさまざま声があることへの見解を問われた李さんは、そうキッパリと答えた。
韓国の裁判所に提起された同種訴訟は4月4日現在、全67件のうち12件で原告勝訴が確定、1件は控訴取り下げ、54件で裁判が継続中だ。
文、写真:韓賢珠